第231話 隠していた魔力
ガレスとエミルの激闘が終わった訓練場には まだ熱気が残っていた
王国式剣術
教国式剣術
異なる二つの流派がぶつかり合った一戦は
その場にいた全員の記憶へ深く刻まれている
しばらく静寂が続く そんな中
ガレスは訓練場の端に立つ一人の男へ視線を向けた
「……お前」
その声に男は肩を震わせる
「え?…」
ガレスは腕を組んだ
「リック……いつの間にいたんだ」
リックは頭を掻きながら苦笑する
「皆さんが訓練場へ向かって行くんで 何か面白いことでもあるのかな?と思って……最初から見てましたよ?」
ガレスは口元を緩めた
「そうか……ならちょうどいい お前も一本やれ」
リックは目を丸くする
「俺ですか?……それは団長命令ですか?」
ガレスは首を横に振った
「いや 個人的な頼みだ」
その瞬間リックは首を横に振った
「嫌です!」
リックは即答した
「俺 痛いのは嫌いなんで!」
レオンは思わず吹き出した
「即答かよ」
ガレスは呆れたようにため息を吐く
「相変わらずだな」
すると レオンが一歩前へ出た
「リック 領主命令だ……出ろ」
リックの動きが止まる
「え……旦那……"マジの領主命令"ですか?」
「ああ"マジの領主命令"だ」
リックは観念したように肩を落とした
「拒否権ないじゃないですか……最初からそう言ってくださいよ」
ぼやきながら訓練場の中央へ歩いていく
その背中を見送りながら
ガレスは小さく笑った
「アイツが素直に行くなんて珍しい さっきまでの二試合を見て少し感化されたようだ」
リックは肩越しに振り返る
「団長 聞こえてますよ」
ガレスは豪快に笑う
「聞こえるように言った」
リックはため息を吐くと立ち止まった
「それで 私の相手は誰ですか?」
その言葉にゼムが静かに一歩前へ出る
「私がお相手いたしましょう」
その瞬間リックの顔が青ざめる
「嫌です!」
またもやリックが即答した
「無理です!俺 まだ死にたくないです!」
リックは必死に首を横へ振る
「ゼムさんだけは本当に無理です!勝てる気が一ミリもしません!」
ゼムは穏やかに微笑んだ
「ご安心ください "ある程度"力量は合わせます」
リックは引きつった笑みを浮かべる
「その”ある程度”が一番怖いんですって……」
そのやり取りを見ていたジークハルトはレオンへ視線を向けた
「レオン辺境白 あの執事の方は そんなに強いのですか?」
レオンは迷うことなく頷く
「はい 多分 ここにいる人の中で一番強いと思いますよ」
レックスとエミルは驚いた表情でゼムを見る
ジークハルトも静かに目を見開いた
「そこまでですか……」
一方 ルーカスは小さく笑う
「強いとは思ってたが……面白い」
レオンは二人の前へ出た
「じゃあ俺が審判をする」
ゼムとリックは頷く
レオンはリックへ視線を向けた
「リックは魔力を持ってないから 王国式ルールでいいな?」
リックは不思議そうに首を傾げる
「え?……俺 魔力持ってますよ?」
その場の空気が止まった
「「「「…………え?」」」」
レオンは目を見開く
「は?」
ガレスも眉をひそめた
「……今 何と言った?」
レックスとエミルも驚きを隠せない
ルーカスは思わず笑った
ガレスは額に青筋を浮かべる
「お前……なんで今まで黙っていた」
リックは悪びれることなく答えた
「だって 言ったら訓練増えるじゃないですか」
一瞬の沈黙が訓練場に流れた
そしてリックはハッと口を押さえる
「あっ…………やっぱり俺 魔力無いです」
レオンは呆れたようにため息を吐いた
「もうおせーよ」
リックは肩を落とす
「ですよねぇ……」
ガレスは腕を組みながら言った
「後で覚えていろ」
「えっ!……それは今のなしってことで!」
「駄目だ」
ルーカスは堪えきれず笑い出した
ジークハルトも思わず苦笑する
レオンは小さく息を吐き二人を見た
「それじゃあルールは帝国式 勝敗は一本 危険と判断したら俺が止める」
ゼムは静かに一礼して木剣を持つ
「承知いたしました」
リックも木剣を握りしめた
「……よろしくお願いします」
ゼムも木剣をゆっくりと構えた
「こちらこそ」
二人は静かに距離を取った
先ほどまでの笑いは消え
訓練場は再び静寂に包まれる
全員の視線が二人へ集まった
レオンはゆっくりと右手を上げた
「──始め」
その掛け声が訓練場に響いた




