第22話 最強の盾
レオンは机の上の図面を指差した
「そしてこの大盾をベテラン兵に持たせる」
ガレスの眉が動いた
ゼムも驚いたように目を見開く
エルグランド王国では常識外れだった
何故なら新人が最初に盾と剣を使う風習があるからだ
それが当たり前だった
「若様、ベテランを盾役にするのですか?」
「ああ」
レオンは即答した
「新人兵は前衛から外す」
執務室が静まり返る
ガレスは腕を組んだ
「若様のお考えは分かりますがまず反発が出ます、今まで前で戦っていた者達です、それを急に盾役へ戻れと言われれば納得しない者が必ず現れます」
長年王国の領地の騎士団に所属していれば当然の答えだった
レオンもそれは分かっているからこそ先に用意した
レオンは机の上へ分厚い帳簿を置いた
ドサリと重い音が執務室に響く
「まずこれを見てくれ」
帳簿が開かれそこには過去五年間の討伐記録が記されていた
そこには討伐数、負傷者、死者数そして死者の名前が書かれていた
ガレスが目を細める
そこには赤い文字が並んでいた
エルグランド大国の名簿で赤文字を意味するのは『戦死』である
アルト 十八歳
ベック 十七歳
ギル 十九歳
ロイド 十八歳
ケイン 十七歳
更にページをめくるとそこには、沢山の名前が並んでいた
そのほとんどが新人だった
ガレスの顔が更に曇る
「……こんなにいたか」
「あぁ……いたんだ」
そしてレオンは名簿の名前を指差しながら静かに答えた
「ガレスはアルトを覚えているか?」
ガレスは頷く。
「去年の新人です」
「ああそうだ、アルトは農家の三男だった、母親が病気だったのでアルトの見舞金で薬を買ったそうだ」
ガレスは黙った
レオンは更に名簿の赤文字の名前を指差していく
「ベックは妹が二人いて兄が病死してしまった、数年後に家を継ぐ予定だった」
さらにページをめくり指を指していく
「ギルは孤児院出身で初任給で同じ施設の子供達に菓子を買う約束をしていた」
ゼムも言葉を失う
レオンは帳簿を閉じた
「去年だけで二十七人死んだ」
普段とは違いレオンは重く静かな声だった
「見舞金は金貨百二十九枚……だが問題は金じゃない」
レオンは窓の外の訓練場を見たそこには木剣を振る若い兵士達が今も鍛錬をしていた
レオンは兵士達を指を指していく
「あいつはエリック 妹が三人いる」
「あっちはマルク父親が片足を失っている」
さらにレオンは続いた
「あっちはジーク鍛冶屋の長男だ」
ガレスは驚いていた
新人全員の名前や家族構成それに事情も全て把握していたのだ
「若様、全員の事を?」
「辺境伯代行だからな領民の名前くらい覚えている」
そして静かに言った
「俺はあいつらを死なせるために雇ったんじゃない」
執務室が静まり返る
「だから新人は後ろへ下げる」
資料を広げ新しい編成図を出した
盾役はベテラン
中衛役は中堅
最後に後衛に新人
「最初は弓や罠を仕掛ける少し慣れてきたら索敵や回復薬運搬などをやらす」
皆がレオンの話しに引き込まれていた
「新人はまず戦場に慣れさせるその次に槍での攻撃隊、最後に前衛だ」
ガレスは頷く理屈は分かる
だがまだ問題がある
「ベテラン達はそれでは納得しないでしょう」
レオンはその質問を待っていた
そして帝国製大盾の図面を叩く
「だからこれを用意した」
全員の視線が集まる
「今までの盾役は捨て駒に近かっただからだ、当然嫌われる」
レオンはもう一枚の図面を広げた。
帝国製重鎧。
「だが違う俺が欲しいのは生贄ではない、壁だ」
ルーカスが少しだけ目を細めた
「壁?」
「ああ!絶対に破られない壁だ!」
執務室が静まる
「新人を守るため、討伐隊を守るため、帰る場所を守るため」
レオンは手に拳をにぎった
「だから最前線には一番経験のある者を置く」
ガレスが図面を見る
帝国製大盾と帝国製重鎧どちらも王国では超が付く程の高級品だった
「その役目を任せる以上は絶対死ない様に」
レオンは静かに言った。
「装備だけは誰より良い物を渡す」
「……だから帝国製なのか」
そこでルーカスは小さく笑った
「なるほど」
ルーカスは腕を組ながらレオンを見つめる
「そういう使い方か」
ようやく理解した
なぜ武器ではなく大盾だったのか
なぜ重鎧だったのか全て繋がった
レオンは頷く
「ベテランにも新人にも生き残ってもらう誰も死なない事が大事だ」
そして帳簿へ手を置いた
「来年はこの赤文字増やしたくない」
誰も言葉を返せなかった
ガレスもゼムもルーカスも目の前にいる少年は北の戦神のような英雄ではない
だが確かに領主だった
領民を守るために考え未来を変えようとしている
その姿にルーカスは初めて本当の意味でレオンを認め始めていた
ノルディア騎士団改革は第一歩が静かに始まろうとしていた




