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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第2章 新しい領主と第二皇子

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第21話 改革の始まり

グレイムベアの討伐から二週間が過ぎ、レオンの生活は大きく変わっていた。


朝は、まだ日も昇り切らない時間からルーカスとの剣術訓練。昼は、辺境伯代行として領地から届く大量の書類を処理し、夜になると、ゼムと共に魔術の研究と訓練を行う。


身体を休める時間も満足に取れないほど、レオンは忙しい毎日を送っていた。それでも、一度も弱音を吐かなかった。


父を救えなかった。

その後悔だけは、今も胸の奥に残り続けている。

あと少しだけ早く治療法を見つけていれば。もっと知識があれば。もっと強ければ。何度考えても、失った父が戻ってくることはない。

だからこそ、レオンは強くなろうとしていた。

領主としても、一人の人間としても。

次に何かが起きた時、今度こそ大切なものを守れるようにする。そのためなら、多少の無理をすることなど構わなかった。


そして今日、ついに帝国からの荷が到着した。

ノルディア邸の中庭には、帝国からやって来た巨大な荷馬車が何台も並んでいる。その周囲では、帝国の紋章を身につけた護衛兵達が、荷台から大量の武具を降ろしていた。

作業を見守っていたガレスは、荷馬車の数に目を丸くする。


「本当に届きましたな」


「約束したからな」


ルーカスは腕を組んだまま、満足そうに答えた。

荷台を覆っていた分厚い布が外されると、その下から

巨大な鋼鉄製の大盾と重鎧が姿を現した。


帝国軍で正式に採用されている大盾は、王国で使われている一般的な盾よりも、一回りどころか二回りは大きい。重鎧も、王国の騎士達が身につけているものより全体的に厚く作られている。

それだけの大きさがありながら、想像していたほど重くはない。さらに強度も、王国で使われている武具より高かった。


初めて目にする帝国製の武具を前に、集まっていたノルディアの騎士達からどよめきが上がる。


「でかいな……」


「これを持って戦うのか?」


レオンは、荷台から降ろされた大盾の前へ立つと、表面を軽く叩いた。

ゴーン、と重く鈍い金属音が中庭へ響く。

帝国の高い加工技術によって作られた大盾は、簡単に壊せるようなものではない。その強度を確かめたレオンは、小さく頷いた。


「よし。ゼム、ガレス、この後、執務室に来てくれ」


二人へ声をかけると、レオンは先に執務室へ向かった。


ようやく、二人へ説明する時が来た。

何故、帝国から大盾と重鎧を取り寄せたのか。そして、それらを使ってノルディア騎士団をどのように変えようとしているのか。

レオンが必要な資料を机の上へ用意して待っていると、執務室の扉が叩かれた。


コンコン。


「入れ」


レオンが答えると、扉が静かに開いた。

入ってきたのは、ガレスとゼム。

そして、二人の後ろには、何故かルーカスが立っていた。

当然のような顔で入室した銀髪の皇子を見て、レオンは固まった。


数秒間、無言でルーカスを見つめる。しかし、ルーカスは何も気にしていない様子で、平然と執務室へ入ってきた。

レオンは一度目を閉じてから、ゆっくりと口を開く。


「……ルーカス君?」


その呼び方を聞いたガレスが吹き出し、ゼムも口元へ手を当て、咳払いで笑いを誤魔化した。

だが、呼ばれた本人だけは不思議そうに首を傾げる。


「何だ?」


「いや、何だじゃないんだよ!」


レオンは思わず額を押さえた。


「これから騎士団の会議をするんだけど?」


「知っている」


「国境領の軍事に関係する話なんだけど?」


「知っている」


「ルーカス君は、帝国の皇子なんだけど?」


「そうだな」


どうやら、まったく話が通じていない。

レオンは助けを求めるように天井を見上げたが、当然ながら、そこに答えはなかった。

気を取り直し、もう一度ルーカスへ向き直る。


「ルーカス君?」


「何だ?」


「君は普通、席を外すんだ」


「何故だ?」


ルーカスは、本気で理由が分からないようだった。

そのやり取りを見ているガレスは、必死に笑いを堪えながら肩を震わせている。ゼムに至っては、すでに説得を諦めたらしく、穏やかな表情で成り行きを見守っていた。

ルーカスは腕を組み、当然のように言った。


「俺は、その大盾を使って何をするのか気になる」


即答だった。

レオンは、肺の中の空気を全て吐き出すような深いため息をついた。


「気になるという理由だけで居座るなよ……」


「気になる」


「子供か」


「お前も子供だろう」


「……そうだった」


その返事を聞き、とうとうガレスが声を上げて笑い出した。ゼムも顔を逸らしているが、その肩は僅かに揺れている。

先ほどまで真面目な会議を始めようとしていた執務室の空気が、少しだけ和らいだ。

一方、ルーカスは真剣な表情を崩していない。どうやら、本当に帝国製の大盾を使って何をするのか知りたいだけらしい。


レオンは、しばらく考えた。


騎士団の改革を始めれば、ルーカスにも数日後には内容が分かる。作戦を実行するのはノルディア領内であり、帝国と敵対するためのものでもない。わざわざ隠すほどの内容ではなかった。


それに、ルーカスとはこの二週間、何度も剣を交え、グレイムベアの討伐も共にしている。

今さら追い出したところで、素直に部屋へ戻るとも思えなかった。


「……もう、好きにしてください」


「そうか」


ルーカスは満足そうに頷くと、当然のように空いている席へ腰を下ろした。

その様子を見たガレスが、苦笑しながらレオンへ声をかける。


「若様、諦めましたな」


「もう諦めました」


レオンは力なく答えると、机の上へ用意していた資料を広げた。

過去五年分の魔獣討伐記録。

討伐によって発生した死傷者の数。

騎士や遺族へ支払われた見舞金。

騎士団の運営に使われた費用。

そして、今日届いた帝国製の大盾と重鎧の図面。


全ての資料を並べ終えたレオンが顔を上げると、執務室の空気が変わった。

先ほどまでの軽い雰囲気が消え、ガレスとゼムも表情を引き締める。

レオンの顔からも、十二歳の少年らしい表情は消えていた。

そこにいるのは、ノルディア領を預かる辺境伯代行だった。


「では、始める」


レオンは全員を見回してから、最初の資料へ手を置いた。


「まず、結論から言うと、新人兵を前衛から外す」


告げられた言葉に、ガレスが目を見開いた。ゼムの表情にも僅かな驚きが浮かぶ。

新人兵が前衛へ立つことは、これまでのノルディア騎士団では当然とされてきた。その方針を根本から変えるというのだ。

ルーカスだけは何も言わず、レオンが次に何を話すのかを待っていた。


「そして、この大盾を――」


レオンは机の上に広げられた図面を指差した。


「ベテラン兵達に持たせる」


その一言から、ノルディア騎士団の改革が始まった。

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