第223話 相互防衛
ジークハルトは静かに全員を見渡した
「それでは 二つ目の条項についてご説明いたします」
会議室の空気が僅かに引き締まる
「二つ目は 帝国とノルディアによる相互防衛条項です」
その言葉にアレクとレックスの表情が僅かに変わる
ジークハルトは落ち着いた口調で続けた
「帝国に有事が発生した場合 ノルディアは可能な限り帝国を支援します……そしてノルディアに有事が発生した場合 帝国もまた可能な限りノルディアを支援します」
静かな沈黙が流れた
最初に口を開いたのはレックスだった
「確認ですが その有事には戦争も含まれるという認識でよろしいのでしょうか」
「はい」
ジークハルトは迷うことなく頷く
「戦争 大規模な魔獣被害 その他国家の存続に関わる事態 それら全てを有事として想定しております」
レックスは腕を組みながら考え込む
「つまり 仮に王国とノルディアが争う事態となれば帝国はノルディアを支援するということですか?」
その問いにジークハルトは静かに答えた
「条約に従えば その通りです」
レックスは難しい表情を浮かべる
一方 アレクは静かにジークハルトを見つめていた
「一つ お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
「そこまでしてノルディアを守る理由は何でしょう 王国と帝国が再び争う危険を冒してまで この条項を設ける理由が私には分かりません」
会議室は静まり返る
ジークハルトは小さく頷いた
「当然の疑問です ですが 私達が最も警戒している有事は 王国との戦争ではありません」
アレクが僅かに眉をひそめる
ジークハルトは静かに続けた
「本来 この条項は来るべき魔獣の氾濫へ備えるためのものです」
その一言に アレクとレックスは顔を見合わせた
アレクはゆっくりとジークハルトへ視線を戻す
「先ほどから魔獣の氾濫と仰っていますが それはいったい どういうことなのでしょうか?」
アレクの問いに ジークハルトは静かに頷いた
「その説明は 私より適任の方がおられます」
そう言うと、ジークハルトはレオンへ視線を向けた。
「レオン辺境伯 ご説明をお願いできますか?」
突然話を振られたレオンは小さく頷く
「分かりました」
レオンは席を立つことなく 円卓を見渡した
「まず最初に申し上げます これは私の推測ではありません ノルディア領で実際に確認された事実です」
アレクとレックスの表情が真剣になる。
レオンは静かに続けた
「ここ数年 ノルディア領ではボアの討伐数が年々増えています」
アレクはすぐに疑問を口にした
「それはボア肉事業によって討伐数が増えただけではありませんか?」
レオンは首を横に振る
「いいえ 私達は以前から同じ猟場で討伐を続けています 変わったのは狩る場所ではありません 一度の狩りで遭遇するボアの数です」
レオンの言葉に、会議室は静まり返る
「つまり ボアそのものの生息数が増えているということです」
アレクとレックスは顔を見合わせた
それが意味するものを まだ二人は理解できずにいた
レオンは続ける
「そして それだけではありません」
レオンは静かに続ける
「本来 森の奥深くに生息しているグレイムベア その遭遇率も以前と比べて明らかに上昇しています」
レックスが僅かに眉をひそめた
「グレイムベアが……ですか」
「以前であれば数か月に一度遭遇するかどうかでした が今では その頻度が確実に増えています」
アレクは腕を組みながら考え込む
「それだけでは偶然という可能性もあるのではありませんか?」
「その可能性も考えました」
レオンは落ち着いた口調で答える
「ですが 決定的だったのはワイバーンです」
その一言でレックスの表情が変わる
「ワイバーン……」
「はい」
「父グラニウスが生前最後の戦いの日 バルト山脈の奥地に居るはずのワイバーンが平原付近で五体のワイバーンが確認されました」
アレクは目を見開いた
「五体も……」
ワイバーンは本来 群れを作る魔獣ではない
一体現れるだけでも騎士団が出動する災害級の存在だ
それが五体同時に現れた
異常と言うほかない
レオンは静かにジークハルトへ視線を向けた
するとジークハルトが小さく頷く
「帝国にも同じ記録が残っています 今から約二十数年前 帝国軍が魔獣の氾濫に遭遇した際 ノルディア領でも ワイバーンが平地まで降りてきたそうです」
レオンは再びアレクとレックスを見る
「ボアの増加 グレイムベアとの遭遇率の上昇 そしてワイバーンの出現 さらに帝国に残る過去の記録との一致 これらを総合した結果 私はバルト山脈周辺で魔獣の活性化が起きていると判断しました」
会議室に重い沈黙が流れる
アレクもレックスも 先ほどまでの表情は消えていた
二人はようやく 帝国が魔獣情報の共有と相互防衛条項を新たに加えようとした理由を理解し始めていた




