第222話 受け継がれた信頼
静かな空気が会議室を包む
最初に口を開いたのはアレクだった
「一つよろしいでしょうか?」
ジークハルトは穏やかに頷く
「もちろんです」
アレクは真っ直ぐジークハルトを見つめた
「先ほどのお話で、一つ疑問があります 何故 王国ではなくノルディアとの和平条約なのでしょうか……和平条約であれば 本来は王国と帝国が結ぶものではありませんか?」
その言葉に会議室は静まり返る
レックスも同じ疑問を抱いていたのか 黙ってジークハルトへ視線を向けた
ジークハルトは小さく頷く
「それは当然の疑問でしょう では その理由からご説明いたします」
そう言うと、一度全員を見渡した
「王国には古くから複数の派閥が存在しております ですが ノルディア家はいずれの派閥にも属しておりません」
アレクは静かに耳を傾ける
「皇帝陛下は その点を高く評価されました 王国そのものと和平条約を結べば 政権や派閥の変化によって破棄される可能性があります しかし どの派閥にも属さないノルディア家であれば その心配はありません」
ジークハルトは続ける。
「そしてもう一つ 万が一 王国がノルディア辺境伯を別の人物へ差し替えた場合 その時点で条約は失効するよう定められております」
アレクは納得したように頷いた。
「なるほど……つまり 王国ではなくノルディア家そのものを信用したということですね」
「その通りです」
ジークハルトは迷いなく答えた
するとアレクはさらに質問を重ねる
「でしたら もう一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ええ」
「何故 そこまでノルディア家を信用されたのですか?」
その問いに ジークハルトは穏やかに微笑んだ
「それは父から直接聞いた話になります まだ父が第一皇子だった頃のことです 帝国軍は大規模な魔獣討伐へ向かいました しかし 予想を遥かに上回る魔獣の群れに遭遇し 一万もの帝国軍が壊滅寸前まで追い込まれたそうです」
レックスが僅かに目を見開く
ジークハルトは静かに続けた
「その時 救援へ駆け付けたのが 先代ノルディア辺境伯グラニウス殿でした」
レオンは黙って話を聞いていた
以前 聞いた話そのものだった
「グラニウス殿は帝国軍一万を救い 戦いが終わった後は 敵味方の区別なく救護されたそうです」
ジークハルトは懐かしむように目を細める
「父は その姿に深く感銘を受けました この方になら国と国との約束を託せる そう確信したそうです」
静かな沈黙が流れる
アレクはゆっくりと頷いた
「そういう経緯があったのですね」
「はい」
ジークハルトも静かに頷く
「だからこそ帝国は 王国ではなくノルディア家との和平条約を結びました」
そして小さく息を吐く
「では 本題へ戻りましょう 今回 和平条約へ新たに加える二つの内容についてご説明いたします」
ジークハルトは全員を見渡しながら静かに口を開く
「一つ目の条項は帝国とノルディアによる魔獣情報の共有です」
その言葉にアレクは僅かに首を傾げた
「魔獣情報の共有……ですか?」
「はい」
ジークハルトは頷く
「帝国で確認された魔獣の異変や目撃情報は速やかにノルディアへ 同様に ノルディアで確認された情報も帝国へ共有していただきます 魔獣の種類 出現場所 被害状況 生息域の変化 どのような小さな情報であっても共有する それが一つ目の条項です」
アレクは少し考え込んだ後 率直な疑問を口にした
「それは そこまで重要なことなのでしょうか?ノルディアのような辺境の地では魔獣被害は日常です 情報を共有するためだけに 新たな条項を加えるほどのこととは思えません」
レックスも黙って頷く
同じ疑問を抱いていたようだった
しかしジークハルトは否定することもなく 静かに頷いた
「その疑問はもっともです ですが その理由につきましては二つ目の条項をご説明した後 お話しいたします」
アレクもそれ以上は追及せず 小さく頷いた
「承知しました」
ジークハルトは一度息を整え 再び全員を見渡す
「では 二つ目の条項についてご説明いたします」
会議室に再び静寂が流れる
アレクとレックスは静かにジークハルトを見つめた
二人だけが これから語られるもう一つの条項をまだ知らない
ジークハルトは一度全員を見渡すと 静かに口を開いた




