第214話 帝国の武具
ジークハルトとの和平条約について話し合ってから数日が過ぎた
ノルディア邸の執務室ではレオン クロエ ゼム
そして帝国から滞在中のジークハルトとルーカスの五人が机を囲んでいた
ゼムは一枚の書類を机へ置く
「ぼっちゃま ノルディア騎士団の装備ですが そろそろ更新時期です」
レオンは書類へ目を落とした
「やっぱりか」
ゼムは静かに頷く
「以前 ルーカス殿下より贈呈していただいた 大盾十枚と鎧十領ですが」
ルーカスは思い出したように笑う
「ああ 初めて会った時のやつか まだ使ってくれてたんだな」
「はい 現在は三部隊が交代で装着しております」
ゼムは書類を指差した
「ぼっちゃまが領主になられる前 レッドボアの討伐数は月に十頭前後でした ですが現在は 月四十頭を超えております 出撃回数も以前とは比べ物にならないほど増えました そのため 大盾も鎧も損耗が激しく そろそろ寿命が見えてまいりました」
レオンは腕を組む
「今までよく持ったな」
ゼムは頷く
「帝国製ですから 耐久性は王国製より上です」
ジークハルトは穏やかに微笑んだ
「帝国の武具は丈夫ですからね」
レオンは少し考え
ジークハルトへ視線を向けた
「ジークハルト殿下 一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
「帝国製の大盾と鎧を新たに購入したいと考えています ですがまだ和平条約には皇帝陛下の署名がありません それでも購入は可能なのでしょうか?」
ジークハルトは穏やかに頷いた
「ええ 問題ありません 今回の和平条約には武具を含めた貿易も盛り込まれています 正式な締結は父の署名を待つことになりますが」
少し間を置く
「貿易を早めるかどうかは 私の裁量で決められます ですので武具の取引でしたら今日からでも可能です」
レオンは安堵したように息を吐いた
「ありがとうございます 助かります」
ルーカスは笑う
「兄上ならそのくらい朝飯前だ 父上からも任されてるしな」
ジークハルトは苦笑する
「ルーカス その言い方では誤解されます」
「そうかなのか?」
「"交易に関する判断"ぐらいは現在私が任されております この程度であれば問題ありません」
レオンは小さく頷いた
「安心しました……では大盾と鎧の購入をお願いしたいと思います」
ジークハルトは微笑み返した
「承知しました 帝国でも品質の良い物を用意させましょう」
その言葉にゼムも静かに頷く
騎士達の命を守る装備
それが再び整えられることになった
ジークハルトはふと書類へ目を落とした
「ですが 大盾と鎧だけですか?剣は不要なのでしょうか?」
レオンは頷く
「はい 王国では太く長い剣が好まれます それに魔獣相手では細身の剣より扱いやすいんです 帝国の細身で鋭利な剣では魔獣には少し不向きですので」
ジークハルトは納得したように頷いた
「確かに帝国では対人戦を想定しておりますからね……ですが大盾や鎧でしたら帝国製の方が優れております 帝国の武具は高純度のミスリルが使われていますからね」
レオンは小さく頷いた
確かに 以前ルーカスから贈られた装備は
ここまで酷使してもまだ使えている
その耐久性は十分証明されていた
レオンはクロエへ視線を向ける
「クロエ 王国での相場はどのくらいだ?」
クロエは少し考えて答えた
「品質にもよるけど 大盾一枚が金貨十五枚くらい 鎧一領が金貨二十枚くらいかな その辺りが王国で流通している価格だよ」
ジークハルトは続ける
「帝国でしたら 大盾は金貨十枚から十二枚 鎧は金貨十五枚から十七枚 その辺りが妥当でしょう 産地が近い分 王国より安く提供できます」
レオンは指を折りながら計算する
「大盾十枚で百枚」
「鎧十領で百五十枚」
「合わせて金貨二百五十枚……」
クロエはすぐに首を横へ振った
「それは帝国価格だよ 王国価格なら大盾が百五十枚 鎧が二百枚 合わせて金貨三百五十枚かな」
レオンはゆっくりとルーカスを見る
「ルーカス……お前……俺と戦いたいって理由だけで 金貨三百五十枚分もくれたのかよ」
ルーカスは不思議そうに首を傾げた
「ああ 俺の小遣いから出した 問題ないだろ?」
執務室が静まり返る
クロエは思わず声を上げた
「問題しかないよ!金貨三百五十枚だよ!? 試合したいって理由で贈る金額じゃないでしょ!」
レオンも呆れたように額へ手を当てる
「皇子の金銭感覚ってどうなってるんだ……」
ジークハルトは苦笑しながら小さく息を吐いた
「その事では かなり父から締められていましたからね」
ルーカスは苦笑する
「父上には滅茶苦茶怒られたな しばらく小遣いも減らされたし」
その言葉にレオンとクロエは顔を見合わせる
「減らされる前の小遣いが気になる……」
思わず漏れたレオンの本音に執務室は笑いに包まれた




