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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
帝国の頭脳と和平条約
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第212話 積み重ねた記録

応接室には重い沈黙が流れていた

ヴァルグの残した慰霊碑

魔獣の活性化

そしてバルト山脈

全てが一本の線で繋がり始めていた

やがてレオンが静かに口を開く


「ジークハルト殿下 実はノルディアでも気になる記録があります」


ジークハルトは視線を向ける


「記録ですか」


「はい」


レオンは席を立つと

執務机の引き出しから数冊の帳簿を取り出した

ゼムが横へ並べていく


「これは騎士団の討伐記録です」


ジークハルトは帳簿へ目を通した

細かく日付や場所

討伐した魔獣の種類まで記されている


「随分細かく記録されていますね」


「私が領主になってから全て記録するよう騎士団へ指示しました」


レオンは一冊の帳簿を開く


「こちらをご覧ください」


指差した先にはレッドボアの討伐数が並んでいた


「私が領主になる前はレッドボアの討伐数は一か月で十頭前後でした」


ジークハルトは静かに頷く


「辺境としては 妥当な数でしょう」


「ですが」


レオンはページをめくる


「領主になってから記録を取り続けた結果 ここ一年で急激に増えていることが分かりました」


さらに次のページを開く


「今では 一か月で四十頭を超える月も珍しくありません」


ジークハルトの表情が変わる


「四倍ですか……」


「はい」


レオンは頷く


「最初は私も乱獲を疑いました 狩り過ぎれば森の生態系を壊してしまいます ですので騎士団へは奥地へ入ることを禁じました」


クロエも思い出したように頷く


「あの時言ってたね 『森を壊したら意味がない』って」


「そうだ」


レオンはクロエの問いかけに答えた

そして帳簿を閉じジークハルトの方へ向いた


「だから 討伐場所は一切変えていません 昔から狩っている "森の入り口付近"だけです 奥地へ踏み込んだことはほぼ ありません」


応接室は静まり返る

レオンは静かに続ける


「それにもかかわらず 討伐数だけが増えているのです」


ジークハルトは腕を組み

帳簿を見つめた


「つまり レッドボアの方から人里へ近付いて来ている……」


「そういうことですね 私もそう考えています」


レオンはもう一冊の帳簿を開いた


「さらに こちらをご覧ください」


そこには別の魔獣の記録が並んでいた


「グレイムベア……」


ジークハルトが静かに呟く


「森の奥地に生息する魔獣ですね」


レオンは頷いた


「そのグレイムベアとの遭遇報告もここ一年で明らかに増えています 以前なら奥地へ入らなければ遭遇しませんでした……ですが最近は森の中腹付近でも目撃されるようになりました」


ジークハルトは帳簿から目を離さなかった

その表情は先程までよりもさらに険しくなっていた

応接室は静まり返っていた

ジークハルトは帳簿を見つめたまま

静かに口を開く


「帝国でも 同じような報告があります」


レオンは顔を上げる

ジークハルトは続けた


「以前は バルト山脈の奥地でしか確認されなかった魔獣が麓付近で目撃されることが増えています……最初は偶然かと思いました ですがレオン殿の帳簿を見る限り偶然では片付けられません」


応接室は静まり返る

ジークハルトは帳簿へ視線を落とす


「何より驚いたのは これほど詳細な記録を残していたことです 討伐場所 討伐数 魔獣の種類 全て整理されている これだけの記録があれば異変にも 逸早く気付けます」


レオンは静かに頷いた


「数字は嘘をつきません 感覚だけでは見落とすことがあります だから記録を残しました」


ジークハルトは小さく笑う


「素晴らしい判断です 帝国でもここまで細かな記録は残しておりません 父へも報告しましょう」


ゼムが静かに口を開く


「ぼっちゃまは領主になられてから どのような小さなことでも記録するよう命じられました 当初は騎士達もそこまで必要なのかと思っておりましたが 今では誰一人文句は申しません」


レオンは苦笑する


「書くだけですから 後で役立つなら安いものです」


その言葉にジークハルトは静かに笑った


「その考え方は見習うべきですね」


再び帳簿へ目を落とす

そこには数字だけが並んでいる

だが その数字が示しているものは明らかだった

レッドボアは人里へ近付き

グレイムベアも行動範囲を広げている

王国だけではない

帝国でも同じ現象が起きている

ジークハルトはゆっくりと顔を上げた


「レオン殿 私はこれが偶然だとは思えません」


レオンも頷く


「私もです 十数年前そして数年前今また同じような異変が起きています……何か原因がある そう考えるのが自然でしょう」


応接室には重い沈黙が流れる

クロエも不安そうな表情で帳簿を見つめていた

これほど多くの証拠が揃っている

もう偶然とは言えない

ジークハルトは静かに息を吐く


「レオン殿 今後もこのような記録を続けてください 帝国でも同様の記録を集めます……そして新たな異変があれば互いに情報を共有しましょう」


レオンは力強く頷いた


「もちろんです 王国と帝国互いの情報が集まれば見えてくるものもあるはずです」


ジークハルトも頷く


「ええ それが両国を守る第一歩になるでしょう」


応接室には先ほどまでとは違う静けさが流れていた

それは不安ではない

同じ脅威へ立ち向かう者同士の静かな決意だった

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