第211話 魔獣の活性化
体調を崩して死にかけています(ただの夏風邪)
皆様もお気を付けて下さい
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本当にありがとうございます
大変励みになります
応接室は静まり返っていた
ジークハルトは静かに口を開く
「これは十数年前に父から聞いた話です 聞いた頃の私はまだ幼く その意味を理解してはおりませんでした」
少しだけ昔を思い出すように目を細める
「その昔 父がまだ皇子だった頃の出来事です」
レオン達は静かに耳を傾ける
「帝国南部 バルト山脈周辺で魔獣による被害が急激に増えた時期がございました」
レオンは黙って頷く
ジークハルトは続けた
「最初は森の奥に棲む魔獣が麓へ下りてくる程度でした ですが年を追うごとに被害は大きくなっていきました 討伐へ向かった兵達は『以前より明らかに魔獣が多い』そう口を揃えて報告したそうです」
応接室は静まり返る
「そこで当時まだ皇子だった父は帝国軍一万を率いて大規模討伐へ向かいました ですが結果は惨敗でした」
クロエは目を見開く
「一万もの軍が……?」
「はい 想定を遥かに超える魔獣の数だったそうです 帝国軍は魔獣に押され 戦線は徐々に南下しました 気付けば王国との国境付近 ノルディア領目前まで後退していたそうです」
レオンは静かに目を伏せる
その話は最近エミルから聞いていた
帝国軍一万を救った父上の戦い
そしてその功績から帝国では
いまでも『北の戦神』と呼ばれるようになったことも
ジークハルトは静かに続ける
「当時 王国と帝国は不可侵条約を結んでおりました 帝国軍がそのまま国境を越えれば 王国から侵攻と受け取られてもおかしくありません そのような状況の中 帝国軍は国境を超えたのにも掛からわず 軍を救ってくださったのがグラニウス殿でした」
応接室は静まり返る
「ですが 当時は誰も何故あれほど魔獣が増えたのか その理由までは分かりませんでした ただ偶然そういう年だった そう結論付けられたのです」
その時ゼムが静かに口を開いた
「実はノルディアでも似たようなことがございました」
全員の視線がゼムへ向く
「グラニウス様が辺境伯へ就任されたばかりの頃です 本来 バルト山脈の奥地にしか生息しないワイバーンが一体だけ平原へ現れました」
ジークハルトの表情が変わる
「ワイバーンが……平原へ」
「はい 当時の騎士達も何故そのような場所へ現れたのか誰一人分かりませんでした」
レオンは静かに考え込む
王国でも
帝国でも
同じような異変が起きていた
偶然とは思えない
ゼムは続けた
「そして数年前にはグラニウス様の最後の戦いでも平原へワイバーンが五体現れました」
クロエは小さく息を呑む
「あの戦いも……?」
「ええ……ですが本来ワイバーンはバルト山脈の奥地に生息する魔獣です 平原まで姿を現すこと自体極めて異例なことです」
ジークハルトは腕を組み
静かに考え込む
「確かにワイバーンが平原まで現れるには 奥地から幾つもの縄張りを越えなければなりません そのようなことは誰かが奥地まで入り縄張りを荒らさない限り まず起こり得ないでしょう」
応接室は静まり返る
その一言にレオンは静かに息を呑んだ
誰かが奥地まで入り
縄張りを荒らさない限り
ワイバーンが平原まで姿を現すことはない
ジークハルトの言葉が重く響く
しばらく沈黙が流れる
やがてジークハルトは静かに口を開いた
「……一つ 気になることがあります」
レオン達は黙って耳を傾ける
「ヴァルグ殿です」
その名にゼムの表情が僅かに変わる
「ヴァルグ殿は魔獣の活性化に誰よりも早く気付いていたのではないでしょうか」
応接室は静まり返る
ジークハルトは続けた
「帝国兵の慰霊碑……あれは 単に敵兵を弔うためだけではない 先程ゼム殿が仰っていましたが……」
レオンは静かに息を呑む
「どういうことですか?」
「もし ヴァルグ殿が 魔獣の活性化を予測していたのであれば 王国と帝国が再び戦争を始めれば互いに多くの兵を失います その直後に魔獣の活性化が起これば 王国も帝国も対応する力を失うでしょう」
少しだけ間を置く
「その結果 両国は莫大な犠牲を払うことになります……だからこそ ヴァルグ殿は帝国兵の慰霊碑を建て王国と帝国が無用な戦争を起こさぬよう 次の世代へ布石を残した 私はそのように考えています」
応接室は静まり返る
レオンは慰霊碑の前で聞いた話を思い出していた
祖父は敵も味方も関係なく
命を懸けて戦った兵士だから祀った
そう聞いていた
だがそこにはもう一つの意味があった
戦争を終わらせるためではない
これから訪れる災厄へ備えるため
次の世代へ道を残した
そんな思いが込められていたのだとしたら
祖父はどこまで先を見据えていたのだろうか?
その時だった
ゼムが静かに口を開く
「昔……リリス様から聞いた話です」
全員の視線がゼムへ向く
「ヴァルグ様は一度だけ お一人でバルト山脈の奥地へ向かわれたことがあるそうです」
ジークハルトが目を見開く
「バルト山脈の奥地へ……」
「はい」
ゼムは静かに頷く
「理由までは聞いておりません」
「あの奥地へ単独で向かうなんて……死にに行くようななものだぞ?」
「はいおぼっちゃまも言う様に ヴァルグ様も全身に重傷を負って帰って来られたそうです」
応接室は静まり返る
ジークハルトは思わず声を漏らした
「一人で……ですか?」
その言葉と同様 レオンも信じられなかった
バルト山脈は騎士団や軍でも部隊を組まなければ近付けない危険地帯だ
そこへ祖父はたった一人で向かったという
「そんな……無謀にも程があるぞ」
レオンは静かに拳を握る
祖父は一体 何を確かめようとしていたのか
何を見て何を知って帰って来たのか?
誰にもその答えは分からなかった
応接室には重い沈黙だけが流れていた




