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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
帝国の頭脳と和平条約
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第209話 兄上の剣

応接室には静かな空気が流れていた

ジークハルトはゆっくりと立ち上がる

そしてレオンへ深く頭を下げた


「レオン殿改めてありがとうございました」


突然のことにレオンは目を丸くする


「えっ?」


何に対する礼なのか分からない

レオンは首を傾げた


「どういうことですか?」


ジークハルトはゆっくりと顔を上げ

穏やかに微笑む


「レオン殿があの子を……ルーカスを変えてくださったのです」



レオンはさらに首を傾げる


「俺は何もしていませんよ 昨日も剣を交えただけです」


ジークハルトは静かに首を横へ振った


「いいえ レオン殿は気付いておられないだけです 以前のルーカスは剣さえ強ければそれで良い そう考える子でした 政治にも軍略にも帝国の情勢にもほとんど興味を示しませんでした」


嬉しそうに微笑み言葉を続けた


「ですがレオン殿と出会ってから変わりました レオン殿に勝ちたい一心で戦術を学び軍略を学び やがて帝国の情勢にも目を向けるようになったのです……そして自分に何が出来るのか あの子は初めて真剣に考えるようになりました」


少し間を置きジークハルトは静かに続ける


「その頃の帝国は皇位継承を巡り 二つの派閥へ分かれようとしておりました」


レオンは静かに耳を傾ける


「第一皇子である私を支持する者 そして第二皇子であるルーカスを支持する者私は剣など全く使えません ですがルーカスは剣も戦闘も非常に優秀です 帝国は実力主義 【強き者こそ国を導くべきだ】そう考える貴族も少なくありませんでした……そのため 私ではなく ルーカスを皇帝に推す貴族もいたのです」


クロエは思わず息を呑む


「そんな……」


ジークハルトは静かに頷いた


「そんな中 父と帝国の有力貴族が集まる会議が開かれました その場へルーカスは自ら姿を現したのです 誰もが第二皇子として皇位について口を開くものと思っておりました ですが あの子が最初に口にした言葉は違いました」


ジークハルトは当時を思い返すように目を細める




『俺は皇帝にならない! 兄上は俺より頭がいい 政治も外交も兄上の方が向いてる だから俺は……兄上の剣になる!兄上が帝国を導き 俺が兄上を剣で守る それが俺に出来ることだ』


「そう言い放ち周りは騒然としていました」


応接室は静まり返る


「あの一言でルーカスを支持していた貴族達も次々と頭を下げ 帝国は再び一つになったのです」


少し間が空き

ジークハルトは真っ直ぐレオンを見つめた


「レオン殿……私は兄弟同士で殺し合う未来など望んでおりませんでした……もし ルーカスがあの決断をしていなければ 私はまず弟を帝国から遠ざけるつもりでした……それでも帝国の分裂が止まらないのであれば 父とグラニウス殿が築いた ノルディアと帝国の和平条約の抜け穴を利用し 王国との戦争を起こしてでも 帝国を一つにする覚悟でした」


レオンは息を呑む

ジークハルトは静かに続けた


「弟を失うくらいなら 私が全ての罪を背負う その覚悟でした……ですがレオン殿がルーカスを変えてくださったおかげで 弟を失う未来も 戦争という選択も父とグラニウス殿が遺してくださった和平も全て守ることができました」


ジークハルトは再び深く頭を下げる


「だから私は 心から感謝しております……ありがとうございました レオン殿」


応接室は静まり返っていた

レオンは何も言えなかった

目の前の男は帝国第一皇子としてではなく

一人の兄として本心を打ち明けていたからだ

しばらく沈黙が流れる

やがてレオンは静かに口を開いた


「俺はそんな大したことはしていません ルーカスと剣を交えて話をしただけです」


ジークハルトは穏やかに微笑んだ


「その出会いがあの子の人生を変えたのです それだけで十分なのですよ」


レオンは照れくさそうに頭を掻く


「そう言われても実感はありません」


その言葉にジークハルトは小さく笑った


「レオン殿らしいお言葉です」


応接室の空気が少し和らぐ

そしてジークハルトの視線が

机の上へ置かれたままの羊皮紙へ向く

レオンもその視線を追った

まだ誰もその和平条約へ手を伸ばしてはいない

ジークハルトは一度小さく息を吐く


「……ですがその前にレオン殿へ 最後に一つだけ質問してもよろしいでしょうか」


レオンは静かに頷いた


「はい 構いません」


ジークハルトは真っ直ぐレオンを見つめる


「何故 そこまで軍備の増強に力を入れておられるのですか?」


その一言で応接室の空気は再び張り詰めた

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