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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
帝国の頭脳と和平条約
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第206話 戦神の墓

翌朝 朝食を終えた一同はノルディア邸の応接室で紅茶を飲んでいた

窓から差し込む朝日が室内を優しく照らしている

穏やかな空気が流れる中

ジークハルトは静かにティーカップを置いた


「レオン殿 一つお願いがあります」


レオンもカップを置く


「何でしょうか」


「案内していただきたい場所があります」


そう言いジークハルトはレオンの目を見て続けた


「北の戦神 グラニウス殿のお墓です」


その言葉にレオンは少し驚いた

ルーカスが父の墓参りを希望することは予想していた

だが ジークハルトまで望んでいるとは思わなかった


「父上の墓ですか」


「はい」


ジークハルトは静かに頷く


「帝国第一皇子として そして現皇帝の息子として 一度グラニウス殿へ感謝をお伝えしたいと思っておりました」


その瞳は真っ直ぐだった

レオンはゆっくりと頷く


「分かりました ご案内します」


「ありがとうございます」


ジークハルトは丁寧に一礼した

隣でルーカスも口を開く


「俺も久しぶりに挨拶しておきたい」


レオンは少し笑う


「ああ 父上も喜ぶと思うよ」


それから一同は邸を出た

冷たい冬の風が頬を撫でる

空は雲一つない青空

遠くには白く雪を被ったバルト山脈が見えていた

ノルディア家の墓所は邸から少し離れた小高い丘の上にある

石畳の道を歩き緩やかな坂を登っていく

道の脇には雪が残っていた

だが丘へ近付くにつれ

雪の間から色鮮やかな花々が姿を見せ始める

冬とは思えないほど多くの花が咲いていた

ジークハルトは不思議そうに周囲を見渡す


「この季節に花が咲いているのですか?」


レオンは頷いた


「この丘には魔力を含んだ湧水が流れています その影響で供えられた花は普通より長く咲き続けるんです」


「魔力を含んだ湧水……」


ジークハルトは興味深そうに呟いた

さらに丘を登る

やがて頂上へ辿り着いた一同は足を止めた

ジークハルトは思わず目を見開く


「これは……」


目の前に広がっていたのは

一面の花だった

丘を覆い尽くすほどの献花

赤や白 黄色や青の花束が幾重にも重なり

中央に建つ墓石を囲んでいる

まるで墓所ではなく花畑だった

その中央には一つの墓石が静かに佇んでいる


【グラニウス・ノルディア】


墓前には今日供えられたばかりと思われる新しい花束まで置かれていた

ジークハルトは静かに周囲を見渡す

帝国にも英雄の墓は数多く存在する

歴代皇帝

将軍

名高い騎士達

しかし これほど花に囲まれた墓を見たことはなかった

しかも古い花の隣には新しい花

昨日供えられた花の隣には今日供えられた花

毎日のように誰かが訪れていることが一目で分かる


「これほど多くの献花を受けるお墓は帝国でも見たことがありません」


ジークハルトは感嘆したように呟く

レオンは墓石へ視線を向けた


「領民のみんなが毎日のように来てくれるんです 父上は今でも"ノルディアを"守った英雄ですから」


ゼムも穏やかに頷く


「魔力を含んだ湧水によって花が枯れにくいこともございます ですがそれ以上に毎日のように新しい花が供えられております」


ゼムの懐かしそうに墓石を眺める


「この花畑は領民の皆様がグラニウス様へ抱く感謝の証でございます」


ジークハルトは墓石を静かに見つめた


「素晴らしい……これほど領民から慕われる英雄を私は他に知りません」


レオンは少し照れくさそうに笑う

そして墓前へ歩み寄った

持ってきた花束を静かに供え手を合わせる

そしてゆっくりと口を開いた


「父上 帝国から友人を連れてきました 第一皇子ジークハルトさんと第二皇子ルーカスです お二人とも父上へ会いたかったそうです」


そう言って静かに頭を下げた

ジークハルトも墓前へ進む

花束を供え深く一礼する


「グラニウス殿 帝国を代表し改めて感謝申し上げます 貴方がおられたからこそ 王国と帝国の和平は築かれました 帝国皇族はそのご恩を決して忘れません」


深々と頭を下げ続ける

その姿には帝国第一皇子としての礼節だけではない

一人の英雄へ捧げる 心からの敬意が込められていた

続いてルーカスが前へ出る

花を供え墓石を見つめる

目をつぶり頭を下げた

頭を上げた時にルーカスは少しだけ笑う


「今度はレオンに負けた……次は勝つ」


短くそう告げ静かにもう一度頭を下げた

クロエとゼムも続いて手を合わせる

穏やかな風が丘を吹き抜け

一面の花畑を優しく揺らした

やがて 全員が黙祷を終える

その時だった

ジークハルトはゆっくりと顔を上げると

何も言わず歩き始めた

向かった先はグラニウスの墓から少し離れた

古い慰霊碑だった

迷いのない足取りだった

まるで最初から目的地がそこだったかのように

ジークハルトは古い慰霊碑の前へ立つ

静かに花を供え深く頭を下げた

その姿を見たレオンは思わず足を止める


「……何故そこに?」


その時ゼムが静かに口を開いた


「ぼっちゃま あそこにはヴァルグ様の代より建てられております"帝国兵の慰霊碑"がございます」


レオンは目を見開く


「帝国兵の……慰霊碑?」


「はい 戦争で命を落とされた帝国兵の方々が眠っております」


レオンは慰霊碑へ視線を向けた

幼い頃から何度も訪れた墓所

ノルディア家の先祖が眠る場所だと思っていた

だがその一角には

戦争で命を落とした帝国兵達を弔う慰霊碑も建てられていた

初めて知る歴史だった

やがてジークハルトが静かに戻ってくる

レオンはゼムへ尋ねた


「ゼム 何故ノルディア家の墓の近くに建てたんだ?」


ゼムは慰霊碑へ静かに視線を向けた


「理由は三つございます」


穏やかな風が吹き抜ける


「一つは敵味方という立場は違えど祖国のため命を懸けて戦った兵士を弔うためでございます ヴァルグ様は命を落とした後まで敵味方を分ける必要はない そう考えておられました」


レオンは静かに耳を傾ける


「二つ目はグラニウス様のお母上……つまり ぼっちゃまのお祖母様であるリリス様は帝国のご出身でございます」


レオンは驚いた


「祖母が……帝国出身?」


「はい ヴァルグ様にとって帝国は敵国であると同時に奥方の故郷でもございました だからこそ帝国兵を粗末に扱うことは決してなさいませんでした」


少し間を置きゼムはゆっくりと口を開いた


「そして三つ目は帝国は戦死者を深く敬う文化がございます」


ジークハルトは静かに頷く


「ええ それは今も変わりません」


ゼムは続けた


「ヴァルグ様は帝国兵をノルディア家と同じ墓所で同じように弔い続ければ 帝国はこの地へ容易には攻め込みにくくなる そう考えておられました この慰霊碑は"グラニウス様の代"までの抑止力として建てられたのだと思われます」


レオンは慰霊碑を見つめた

敵兵を弔うだけでも驚くべきことだ

だが祖父はその先まで見据えていた

静かな沈黙が流れる

やがてジークハルトが穏やかに口を開いた


「実は私も幼い頃から疑問に思っておりました……何故 敵国の辺境伯が帝国兵を……しかもご一族の墓所の隣へ弔われたのかと」


慰霊碑へ静かに視線を向ける


「今日 その答えを知ることができました “ノルディアの悪魔” ヴァルグ・ノルディア辺境伯は私が想像していた以上のお方だったようです」


そう言って もう一度慰霊碑へ深く一礼する

その姿を見ながら

レオンは改めて祖父ヴァルグという人物の大きさを感じていた

剣で戦うだけではない

戦を終わらせ

未来へ繋ぐための布石まで残していた

その生き方は英雄グラニウスを育てた男に相応しいものだった

穏やかな風が丘を吹き抜け

花畑のような墓所を静かに揺らした

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