第204話 ガレオン
訓練場にはまだ試合の余韻が残っていた
ルーカスは地面へ落ちた木剣を拾い上げる
そしてレオンへ視線を向けた
しばらく見つめた後 静かに口を開く
「強くなったな」
レオンは少し照れくさそうに笑う
「ああ 三年前のリベンジだからな」
ルーカスは満足そうに頷く
「見事だった だが次は負けん」
レオンは木剣を肩へ担ぐ
「俺が勝った でも次も勝てるかは分からない 今回はたまたま一発勝負で勝てただけだ」
ルーカスは口元を上げた
「次は俺が勝つ」
レオンも笑う
「望むところだ」
二人は笑い合った
ゼムが静かに一礼する
「大変見応えのある試合でございました」
クロエも笑顔で頷く
「本当に面白かったよ」
フローラも嬉しそうに笑う
「二人とも凄かったです」
その時少し離れた場所で試合を見ていたエミルが
誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた
「レオン君 かっこよかった……」
頬がほんのり赤く染まる
その呟きに気付く者はいなかった
ルーカスが何かを思い出したように手を叩く
「そうだった 危うく忘れるところだった」
そう言うとゼムの元へ歩く
「預かってもらってたな」
ゼムは恭しく木箱を差し出した
「こちらでございます」
「ありがとう」
ルーカスは木箱を受け取るとレオンの前まで歩いた
「約束どおりだ"辺境伯就任"そして"成人祝い"」
そう言って木箱を差し出す
レオンは少し驚いたように笑う
「本当に持ってきてくれたんだな」
「ああ 友への祝いだからな」
レオンは両手で木箱を受け取る
「ありがとう 開けてもいいか?」
「もちろんだ」
レオンはゆっくりと蓋を開けた
中には一振りの剣が納められていた
黒を基調とした鞘
装飾は少ない
だが 洗練された美しさがある
柄と鍔は青銀色に輝いていた
レオンが剣を持ち上げようとしたその時だった
ゼムの目が大きく見開かれる
「……まさか」
その一言に全員の視線がゼムへ集まった
ゼムは剣へ歩み寄り
刀身を静かに見つめる
「間違いありません"ガレオン"の作品でございます」
レオンは驚く
「見ただけで分かるのか?」
ゼムは静かに頷いた
「はい この青銀色の輝きは帝国産高純度ミスリル鉱石の証 そしてこの造形 ここまで美しくミスリルを加工できる鍛冶師は帝国でも極僅かでございます」
ゼムは静かに続ける
「以前 ぼっちゃまがボア討伐のために購入された大盾にもミスリル鉱石は使用されておりました ですがあちらはミスリルを含んだ盾 ここまで高純度のミスリルを加工するには極めて高い技術が必要でございます」
そう言うとゼムは腰の剣へ手を添えた
「私が今も使っているこの剣も"先代ガレオン"の作品でございます」
レオンは剣へ視線を戻す
そして疑問を口にした
「ガレオンという名は世襲制なのか?」
ゼムは一礼する
「はい ガレオンという名は世襲制でございます ですが ただ受け継ぐことは許されません 師匠と同等……あるいはそれ以上の技量を認められなければガレオンの名を継ぐことはできません 実力が伴わなければその名は途絶えます」
ルーカスは静かに頷いた
「ああ そしてこの剣を最後にガレオンの名は終わった」
レオンは目を見開く
「終わった?」
ルーカスは静かに剣を見つめる
「現ガレオンは歴代ガレオンの中でも最も腕が良かったと言われている 弟子も後継者も育てていた だが誰一人としてその領域にたどり着けなかった だからガレオンの名を継ぐ者はいなかった」
ルーカスはレオンへ視線を向ける
「これはガレオン最後の作品だ」
訓練場は静まり返る
レオンは静かに剣を見つめた
帝国最高峰の鍛冶師が生涯最後に鍛え上げた
たった一振り
その重みが静かに両手へ伝わっていた




