第202話 風の戦士
ノルディア邸訓練場の中央では
レオンとルーカスが木剣を構え向かい合っていた
周囲にはノルディア騎士団 帝国の護衛騎士達
クロエ フローラ エミル そしてジークハルトが見守っている
静寂が訓練場を包んだ
ジークハルトが一歩前へ出る
「これは模擬戦だ 勝敗よりも互いに学ぶことを目的とする 異論はないな」
「ああ もちろんだ」
二人は同時に頷いた
ジークハルトは静かに後ろへ下がる
「それでは………始め!」
その瞬間だった
ブワッっとルーカスの身体を淡い緑色の魔力が包み込む
風属性の身体強化
風の魔力が脚へ集中し
筋力と瞬発力を大幅に引き上げる
一方 レオンは静かに右目へ意識を集中させた
未来予知の魔眼
数秒先の未来が脳裏へ映し出される
(右上段 左薙ぎ そのまま突き)
ルーカスが取る行動が鮮明に見えた
「行くぞ!」
ドンッ!!とルーカスが地面を蹴る
一瞬で間合いを詰めた
「速い!」
帝国の護衛騎士が思わず声を漏らす
ガキィンッ!!と木剣同士が激しくぶつかった
だが レオンは既にそこへ木剣を置いていた
未来で見た軌道へ正確に合わせる
「ほう」
ジークハルトが静かに目を細める
ルーカスはそのまま身体を捻り左から薙ぎ払う
ガキィンッ!!
それも受け止められた
続けて突き さらに切り返し
淀みない連撃を放っていく
しかし レオンは最小限の動きで全て防いでいく
クロエが目を見開いた
「全部見切ってる……」
エミルも静かに頷く
「反応が異常ですね」
ルーカスは笑みを浮かべる
「やっぱりそう簡単にはいかないか!」
さらに風の魔力を強めた
ドンッ!!
踏み込みがさらに速くなる
ガキィンッ!!ガキィンッ!!ガキィンッ!!
木剣が何度もぶつかり合う
攻めるルーカス 守るレオン
両者は互角の様に見えた
しかし ルーカスはまだ笑っていた
「ここからだ!」
ブワッ!!と身体を包む風が一段と強くなる
「っ!」
レオンは目を見開いた
速い……未来予知で剣筋は見えている
だが 身体が追い付かない
ガキィンッ!!
レオンは辛うじて受け止める
その衝撃で数歩後退した
「重い……!」
風属性身体強化
速度だけではない
踏み込みの勢いがそのまま木剣へ乗る
一撃ごとの威力が先程とは比較にならない
ルーカスは止まらない
ドンッ!!
さらに踏み込み 右 左 上段 突きと放つ
レオンは未来は見える
だが 反応が半歩遅れる
ガキィンッ!!
木剣が大きく弾かれた
レオンは後方へ飛び退き距離を取る
胸が大きく上下していた
(速い……三年前とは比べものにならない)
ルーカスは木剣を肩へ担ぐように構え
笑みを浮かべる
「どうした もう終わりか?」
レオンは小さく息を吐いた
(未来は見える でも身体が追い付かない)
未来予知だけでは覆せない差
ルーカスはその領域へ到達していた
レオンは静かに木剣を握り直す
(このままじゃ押し切られる)
そう判断した瞬間
レオンの瞳に迷いは消え 静かに後方へ飛び退いた
距離が開きルーカスは木剣を構えたまま笑う
「逃がすか!」
風を纏った身体が再び地面を蹴る
ドンッ!!
一瞬で間合いを詰める
だが
レオンは動かなかった
左手をゆっくりと前へかざす
冷気が溢れ出した
「氷属性か!?」
ルーカスが目を細める
レオンの周囲に無数の氷柱が生み出される
一本 二本 十本 二十本と鋭く尖った氷柱が宙へ浮かび静かに回転する
帝国の護衛騎士達が息を呑んだ
「あれは……!」
「これがあの戦神の氷属性魔法か!」
「グラニウス辺境伯閣下と同じ……!」
ジークハルトも静かに氷柱を見つめる
(これがレオン・ノルディアの氷属性魔法か)
レオンは木剣をルーカスへ向けた
「行くぞ」
次の瞬間
ビュンッ!!
氷柱が一斉に射出される
一本ではない二十本を超える氷柱が四方八方からルーカスへ襲い掛かった
ルーカスは口元を僅かに上げる
「フン……少しは出来るようになったな」
その瞬間 木剣へ風の魔力を纏わせた
淡い緑色の風が刀身を包み込む
「はあっ!」
ガキィンッ!!と先頭の氷柱が真っ二つに砕け散る
続けて二本 三本 四本
ガキィンッ!!ガキィンッ!!ガキィンッ!!
風を纏った木剣は驚くほど鋭く
飛来する氷柱を次々と斬り落としていく
砕け散った氷が訓練場へ降り注いだ
「すごい……」
フローラが思わず呟く
クロエも目を見開く
「あれだけの氷柱を全部斬る気……?」
ルーカスは止まらない
風属性身体強化で加速しながら
氷柱を斬り 砕き 前へ進む
まるで吹き荒れる疾風だった
レオンはその姿を静かに見つめる
(やっぱり 近付けたくない相手だ)
だからこそ氷柱を放った
接近させないため
距離を維持するため
しかし ルーカスは真正面から突破してくる
ガキィンッ!!
最後の一本が砕け散った
氷の破片が舞う
その瞬間だった
ルーカスの視界からレオンの姿が消える
「……!」
氷の破片が視界を遮る
ルーカスは木剣を構え直した
(どこだ?)
舞い散る氷の向こうで一つの影が動く
三年ぶりの勝負はここから本当の勝負へと変わろうとしていた




