第195話 違和感
竜車の中へ静かな時間が流れる
ルーカスは窓の外を眺めていた
一方 ジークハルトは膝の上へ広げた書類へ視線を落としている
そこにはノルディア辺境伯領について調べた資料が並んでいた
しばらく目を通した後
小さく息を吐く
「やはり妙だ」
ルーカスが振り向く
「何がだ?」
ジークハルトは一枚の書類を手に取った
「レオン・ノルディアが辺境伯となってからの領地改革だ……まずボア肉事業 次に宿場町の整備 竜車の導入 ポーション事業 保温箱 フェルナード領との交易 騎士団の増員 砦の建設」
一枚ずつ膝の上へ並べていく
「一つ一つは理解できる だが全てを繋げると話が変わる」
ルーカスは腕を組む
「どういうことだ?」
「全て同じ方向を向いている」
ジークハルトは静かに答えた
「食料 物流 医療 兵站 軍備 どれも戦時に必要なものばかりだ」
ルーカスは少し考え込む
「確かに……」
「偶然とは思えない」
ジークハルトは頷いた
「しかも準備が早過ぎる まるで"未来を"知っているような動きだ」
その言葉にルーカスは思わず笑う
「未来なんて分かるわけないだろ」
「もちろんだ」
ジークハルトも笑みを浮かべた
「だから違和感なのだ……何か理由がある 私はそれを知りたい」
ルーカスは静かに尋ねる
「兄貴は戦争を警戒していると思うのか?」
ジークハルトは少し考えた後
首を横へ振る
「まだ分からない 帝国との戦争か魔獣の氾濫か あるいはその両方か……情報が足りない」
ルーカスは窓の外へ目を向ける
「本人に聞くのか?」
「ああ」
ジークハルトは書類を閉じた
「まずは会って話をする それから判断する」
その翡翠色の瞳は静かだった
決して決めつけない
集めた情報だけで結論を出さない
だからこそ
帝国では誰もが彼を「帝国の頭脳」と呼んでいた
竜車は雪道を進み続ける
ノルディアまであと九日だった




