第193話 帝国の頭脳
兵士と帝国の使者が退室する
執務室には再び静寂が戻った
レオンは机の上へ書状を置く
「第一皇子か……」
小さく呟くクロエが不思議そうに尋ねた
「そんなに凄い人なの?」
レオンは頷く
「ああ……ルーカスから何度か話は聞いてる 帝国第一皇子ジークハルト 【帝国の頭脳】と呼ばれている人だ」
クロエは目を丸くした
「頭脳?」
「ああ 軍略と内政は帝国でも随一らしい "ルーカスが言うには"次の皇帝になる人だ」
ゼムは静かに腕を組む
「そのような方が王国の辺境まで来られる理由ですか……」
レオンも同じことを考えていた
剣を交えるだけならルーカス一人で十分だ
わざわざ第一皇子が同行する理由にはならない
クロエが首を傾げる
「そのルーカスさんが無理やり連れて来られたとか?」
レオンは首を横へ振る
「逆だ 手紙を見る限りルーカスが止めたんだろ」
ゼムは静かに頷いた
「確かにそれでも来られるということは 何らかの目的がおありなのでしょう」
レオンは椅子へ深く腰掛けた
考えられる理由を整理する
親善
敵対
視察
監視
それとも別の目的か……
しばらく沈黙が流れる
その時だった ゼムが静かに口を開く
「ぼっちゃま 一つ気になることがございます」
「何だ?」
「現在 ノルディア邸には教国の聖騎士団副団長エミル殿が滞在しております」
レオンは頷く
「そうだな」
「さらに 帝国第二皇子ルーカス殿下が以前滞在されました そして今回は第一皇子ジークハルト殿下まで来られます」
レオンはゼムの言いたいことを理解した
「王国から見れば 教国と帝国が続けてノルディアへ来ているように見えるな」
「はい」
ゼムは頷く
「国王が警戒しても不思議ではございません」
クロエも表情を引き締めた
「確かに……知らない人が見たら 二つの国がノルディアを味方にしようとしてるようにも見えるね」
レオンは静かに息を吐く
「でも 教国はポーション事業 ルーカスは個人的な約束 それぞれ理由はある 俺達にはやましいことは何もない」
ゼムは穏やかに微笑んだ
「もちろんでございます ですが……他者がどう見るかは別問題です」
レオンは書状へ視線を落とす
帝国第一皇子
帝国の頭脳
その人物が何を見に来るのか
今はまだ分からない
ただ一つだけ確かなことがあった
「面倒になりそうだな……」
レオンが小さく笑うと
ゼムも静かに頷いた
「ええ 間違いなく 更に忙しくなります」
「これ以上仕事増えるとレオンが死んじゃうよ」
「クロエ なんか嬉しそうに聞こえるんだが?」
クロエは笑顔で答えた
「そんな事は……無いよ?多分」
目線を泳がせるクロエを見てレオンは天井を見上げるのであった




