第191話 帝国式
エミルとの模擬戦が終わる
レオンが実剣を鞘へ納めるとゼムが静かに一歩前へ出た
「最後は私でございます」
レオンは笑みを浮かべる
「次は帝国式か……」
「はい」
ゼムは頷く
「帝国式は実戦を想定した戦闘です」
そう言うと木剣を手に取った
レオンも木剣へ持ち替える
ゼムは全員を見渡した
「帝国式では木剣を使用します そして身体強化魔法 属性魔法 どちらも使用して構いません」
クロエが目を丸くする
「魔法も使うの?」
「はい」
ゼムは穏やかに答えた
「実戦では『魔法を使うな』と言っても誰も待ってくれません 使えるものは全て使う それが帝国式です」
レオンはゼムを見る
「ゼムも魔法を使うのか?」
ゼムは首を横へ振った
「いえ ぼっちゃまと私では実力差があります 今回 私は剣のみでお相手いたします」
レオンは苦笑する
「手加減されるのは悔しいな」
「それでも十分学べます」
ゼムは木剣を構えた
「勝敗は木剣を落とす 木剣を奪う もしくは勝敗が確実になった時点で終了です」
レオンも木剣を構える
身体強化を発動し全身へ魔力を巡らせていた
「じゃあ頼む」
「はい」
ゼムは静かに頷く
「それでは始めます」
その瞬間 レオンは後方へ大きく飛び退いた
ゼムは追わない
静かにその場へ立ち続ける
レオンは両手を前へ向けた
大量の魔力が一気に収束する
次の瞬間 無数の氷柱が空中へ現れた
一本や二本ではない
数十本にも及ぶ鋭い氷柱がレオンの周囲に無数に生成され一つ一つが高速で回転する
クロエが思わず息を呑む
「こんな数……」
フローラも目を見開いた
「一度にあれだけの数の氷を回転させているなんて……」
レオンは木剣を構えたまま叫ぶ
「行け!」
無数の氷柱が一斉にゼムへ襲い掛かる
四方八方から迫る氷柱
普通なら回避するしかない攻撃だった
しかし ゼムは動じない
木剣を静かに構える
ガガガガガッ!!
凄まじい連撃が響いた
木剣とは思えない速度で振るわれた剣が
迫る氷柱を一本残らず叩き落としていく
一本 五本 十本 二十本と全て正確だった
砕け散った氷の欠片が訓練場へ降り注ぐ
レオンは目を見開く
「全部落とした……!」
最後の一本が砕けた瞬間だった
ゼムが地面を蹴り一気に距離を詰める
「速い!」
レオンも踏み込む
ガンッ!!
木剣同士が激しくぶつかる
だが 力比べにはならない
ゼムは流れるように木剣を受け流し
最小限の動きで懐へ入り込んだ
バシッ!
木剣がレオンの脇腹を打つ
「ぐっ!」
衝撃でレオンの身体が吹き飛ぶ
宙へ浮いたその瞬間
レオンは左手を訓練場の地面へ叩き付けた
そして 魔力を一気に流し込む
次の瞬間 ドゴォッ!! と鋭い氷柱が一瞬で地面を突き破りゼムの足元へ襲い掛かった
しかし ゼムは驚く様子もなく
半歩だけ身体をずらした
氷柱はゼムの身体を掠めることなく天へ伸びる
「それを避けるのかよ!?」
レオンは着地と同時に地面を蹴る
一気に間合いを詰めた
ガンッ!!
木剣同士が激しくぶつかる
そのまま連撃へ繋ぐ
右 左 突き 上段 淀みなく剣を振るう
しかし ゼムは最小限の動きだけで全てを受け流した
ガンッ
ガンッ
ガンッ
レオンの剣先が全く届かない
「なら!」
レオンは距離を取る
再び地面へ左手を付き魔力を流し込む
ドゴッ!
ドゴォッ!!
今度は二本さらに三本と鋭い氷柱が次々と地面を突き破る
ゼムの逃げ道を塞ぐように襲い掛かった
だが ゼムは流れるような足運びで
僅かな隙間だけを通り抜ける
全て紙一重だった
「クソ!!見切られてる……!」
その瞬間 ゾクリ とした強烈な殺気
「っ!」
レオンは反射的に木剣を構えた
真正面から来る そう判断する
だが来ない
「フェイントか!」
レオンは慌てて周囲へ視線を走らせる
次の瞬間 再び ゾクリ と今度は背後から殺気
「そこか!」
勢いよく振り向く
しかし そこにもゼムはいない
「しまっ!」
考えた その瞬間だった
ゼムは無音のまま懐へ入り込んでいた
木剣がレオンの木剣へ絡み付く
クルリと絶妙な力加減で木剣を絡み取る
「しまった!」
カランッと音と共に木剣が高く宙を舞い訓練場の地面へ転がった
レオンが拾おうと動く
だが その前にゼムの木剣の切っ先がレオンの喉元で止まっていた
訓練場には静寂が流れた
ゼムは穏やかな表情のまま言う
「ここまでです」
レオンは苦笑しながら両手を上げた
「完敗だ」
ゼムは木剣を下ろし静かに一礼した
「ありがとうございました」
レオンは地面へ転がった木剣を拾い上げる
「最後まで騙されたな」
ゼムは穏やかに微笑んだ
「帝国式では 殺気も一つの戦術です 放つ 消す 放ったまま攻撃する 放って攻撃しない 全てを使い分けます……相手が考え始めた時 その時点で帝国式の術中です」
レオンは静かに頷く
王国は殺気で相手を制する
教国は殺気も感情も消す
帝国は殺気すら駆け引きに利用する
三つの国
三つの戦闘思想
その全てに意味があった
レオンはゼム達三人を見渡す
「ありがとう 今日一日で本当に勉強になった」
ゼムは満足そうに頷く
「ぼっちゃま これから三国全ての戦い方を身につけていただきます」
「ああ」
ガレス
エミル
レオンも頷く
こうしてレオンは王国 帝国 教国 三国それぞれの戦闘思想を学び始めるのだった




