第190話 教国式
エミルは静かに一歩前へ出た
腰へ差した剣へ手を添える
スッと静かな金属音と共に剣が姿を現した
レオンも剣を抜く
ガレスとの模擬戦と同じ 使うのは実剣だった
ゼムは二人を見渡す
「教国式ですので身体強化は使用可です それ以外の魔法は禁止となります そして刃が軽く身体へ触れた時点で勝負ありです」
レオンは頷いた
「分かりました」
エミルも静かに一礼する
「よろしくお願いいたします」
二人は向かい合う
訓練場には静寂が流れた
ガレスの時とは違う
重苦しい空気は無い
殺気も感じない
敵意も無い
目の前には確かにエミルが立っている
それなのに 不思議なほど存在感が薄かった
「始め」
ゼムの合図と同時にレオンは踏み込んだ
身体強化を使い
全身へ魔力を巡らせ一気に間合いを詰める
ガキィンッ!!
剣と剣がぶつかる
レオンはそのまま二撃目へ繋ぐ
だが ガキンッと軽く受け流された
「っ!」
三撃目 四撃目 五撃目 と全て紙一重で流される
ガレスのような重さは無い
押し返される感覚も無い
それでも 剣が届かない
レオンは一度距離を取った
(速い……いや違う 無駄が無いんだ)
エミルは最初に立っていた位置からほとんど動いていない
最小限だけ身体を動かし全てを受け流していた
レオンは再び踏み込む
今度は左右へ揺さぶる
上段 下段 突き フェイント
次々と剣を繰り出す
それでも エミルの表情は変わらず "静か"だった
呼吸も乱れない
視線も変わらない
何を考えているのか全く読めなかった
「……」
その瞬間だった
エミルの姿が消えた
「っ!」
突如エミルが視界から消えた
右を見る左を見る……いない
「どこだ?!」
「こちらです」
声が聞こえた時には遅かった
トンと冷たい刃がレオンの左肩へ軽く触れる
レオンはゆっくりと振り返る
そこには 何事も無かったように立つエミルの姿があった
ゼムが静かに告げる
「そこまでです」
エミルはすぐに剣を下ろした
「失礼いたしました」
レオンも苦笑しながら剣を納める
「参った 全く見えなかった」
エミルは首を横へ振る
「身体強化の差です 教国聖騎士団では身体強化を最も重視しております 私は副団長ですので 人より得意なだけです」
レオンは感心したように頷く
「ガレスとは全然違う」
「はい」
エミルは微笑む
「ガレス様は相手へ恐怖を与えます 逆に私は相手へ何も悟らせません 殺気も感情も呼吸でさえも全てを隠します」
ゼムが静かに補足する
「ぼっちゃま 王国は相手を崩す戦い 教国は相手へ悟らせない戦い 同じ剣でも思想は全く異なります」
レオンはゆっくり頷いた
黒マントとの戦いで感じた違和感
今日だけで二つの答えを知った
まだ 学ぶべきことは山ほどある
レオンは二人を見て笑った
「面白い……これでもっと強くなれそうだ」
その言葉に ゼム ガレス エミル
三人は満足そうに微笑んだ




