第188話 鬼人ガレス
レオンはゆっくりと剣を抜く
ガレスも大剣を構えた
二人は十メートルほど距離を空け向かい合う
訓練場に静寂が訪れる
誰も口を開かない
クロエは息を呑んだ
フローラも無意識に両手を胸の前で握る
エミルは腕を組み静かに二人を見つめていた
リックも普段の笑みを消している
ゼムだけが静かに口を開いた
「始める前に一つだけ」
全員の視線が集まる
「ぼっちゃま……ガレス殿は若い頃 王国近衛騎士団へ所属しておりました」
レオンは頷く
レオンもそれは知っている
「当時の王国で最も対人戦を得意としていた騎士です」
ゼムはガレスを見る
「付いた二つ名は【鬼人】」
その瞬間だった
ガレスが静かに目を開く
次の瞬間 ゾクリと背筋へ氷を流し込まれたような感覚が走る
空気が変わり重くなった
肌に針が刺さるような
そんな感覚がレオンの全身を駆け巡る
クロエの肩が震える
「え……」
フローラも思わず一歩後ろへ下がる
「苦しい……」
胸が締め付けられる
息が浅くなり身体が思うように動かない
エミルも目を細めた
「これが……ノルディア騎士団 団長の本気……」
ガレスは何もしていない
ただ立っているだけだった
それなのに 身体が本能的に警鐘を鳴らしている
目の前の男は危険だと
近付けば死ぬと
そう訴え続けていた
そして ゼムが静かに告げる
「これが鬼人と謳われた殺気です」
レオンは額へ汗が流れるのを感じた
黒マント達とも戦った
命のやり取りも経験した
それでも 目の前の圧迫感は別格だった
ガレスは静かに口を開く
「若様 王国では殺気もまた武器の一つです」
低く落ち着いた声だった
だが その一言だけで空気がさらに重くなる
レオンは剣を握り直した
「これが……王国式……」
「はい」
ガレスは頷く
「相手を怯ませ 冷静さを奪う それも立派な戦術です」
レオンはゆっくり息を吐いた
身体が自然と強張る
足が動かない
頭では前へ出ようとしている
それでも 本能が止まれと叫んでいた
その様子を見たゼムは静かに言う
「ぼっちゃま その"黒マント"との戦いで感じた違和感 わその正体がこれです」
レオンは目を見開く
「あの時も……」
ゼムは頷いた
「はい 相手は無意識に殺気を放っていたと思われます ぼっちゃまは初めて本格的な対人戦を経験されたのです そのため身体が本能的に反応し 思うように動かなかったのでしょう」
レオンはガレスから目を離さない
ようやく全てが繋がった
黒マントとの戦いで感じた
あの得体の知れない違和感
あれは剣技でも
魔法でもなかった
"殺気"だった
ガレスは大剣を正眼へ構える
「若様 王国式でご教授いたします ………では………参ります」




