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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第2章 新しい領主と第二皇子

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第19話 帝国皇子の実力

 銀色の髪の少年が笑う。

 目の前では、彼の二倍以上もある魔獣が咆哮していた。


 グレイムベアは、バルト山脈周辺に縄張りを持つ大型魔獣で、その大きさは三メートルを超える。鋼鉄のような筋肉を持ち、並の騎士では相手にもならない。本来なら、討伐隊が組まれるような相手だ。


 だが、ルーカスは笑っていた。


「なるほど……面白い」


 翡翠色の瞳が、獲物を捉える。

 腰の剣を抜くと、銀色の刀身が陽光を反射した。

 グレイムベアが咆哮し、木々の葉が揺れ、大気が震えた。だが、ルーカスは一歩も引かない。むしろ、彼は一歩前へ出た。


「来い」


 挑発だった。

 グレイムベアの目が赤く染まる。

 次の瞬間、巨体が地面を砕きながら突進した。轟音と共に大地が揺れる。

 普通の人間なら逃げる。

 だが、ルーカスの姿が一瞬で消えた。


 グレイムベアの爪が空を切る。

 その横には、すでにルーカスが移動していた。

 風属性の魔力を纏った身体強化。

 木々の隙間を、風のように駆け抜ける。


「遅い」


 ルーカスは、右から左へ剣を振るった。

 グレイムベアの肩から、鮮血が舞う。

 魔獣が、さらに咆哮した。

 振り向きざまに爪を振るう。だが、ルーカスは跳んで躱した。

 空中で、頭上を爪が通過する。

 そのまま木の幹を蹴り、ルーカスはさらに加速した。まるで、空を飛ぶようだった。

 そして、上空から剣を振り下ろす。

 斬撃が、グレイムベアの背中へ深い傷を刻む。


 だが、致命傷ではない。

 グレイムベアが暴れ、木々がへし折れ、土が舞う。

 ルーカスは着地し、そして笑った。


「いいな」


 ルーカスの本心だった。

 王国で行った魔力なしの試合では、不完全燃焼だった。

 だが、今は違う。

 全力を出せる。

 魔力を溜めると共に、風が集まり足元から旋風が巻き起こった。


 銀髪が揺れ。


 翡翠色の瞳が輝く。


 帝国式剣術と、ルーカス独自の風を纏う戦闘術。


「はぁっ!」


 ルーカスは一気に懐へ踏み込もうと、爆発的に加速した。

 グレイムベアは反応できない。


 一閃、二閃、三閃。


 連続する斬撃を浴びせる。

 グレイムベアの身体から、鮮血が舞う。

 だが、グレイムベアもまた強かった。

 瀕死になりながらも、前脚を地面へ振り下ろす。

 地面が砕け、破片が飛んでくる。


 ルーカスは避けきれず、腕を顔の前まで上げて致命傷を避けた。

 だが、すでにグレイムベアは二撃目を振るっていた。

 間に合わないと判断し、ルーカスは剣を構えて耐えようとした。


 しかし、衝撃で身体が数メートル吹き飛び、地面を転がった。


「っ……」


 息が漏れ、腕が痺れる。

 さすがに、正面から受けるべきではなかった。

 そう反省しつつ、立ち上がる。

 ルーカスの口元から血が流れていた。

 だが、ルーカスは笑う。


「楽しいな」


 戦意は衰えず、むしろ増していた。

 グレイムベアも傷だらけだ。

 勝負は近い。

 そう思った時だった。


「グオオオオオオオオ!!」


 森に響く咆哮。


 ルーカスが眉をひそめ、振り向いた。

 一体ではない。

 さらに森の奥から、巨大な影が現れた。

 グレイムベアは、二頭の番いだった。


「……くそ……」


 さすがのルーカスも固まる。

 もう一頭のグレイムベア。

 しかも、先ほどまでの個体より一回り大きく、そして無傷だ。

 グレイムベア二頭を同時に相手にするのは、さすがに予想外だった。


 ルーカスは剣を握り直す。

 恐らく勝てる。

 だが、ただでは済まない。

 そんな計算をした時だった。

 遠くから、複数の馬の足音が響く。

 ルーカスが顔を上げ、森の向こうを見た。

 そして、見覚えのある少年がそこにいた。


「……レオン?」


 その後ろには、ガレス、エルン、リック、ハンス、ドーグが続いていた。

 レオンは馬上から叫ぶ。


「ルーカス殿!」


 ルーカスが目を丸くする。


「何故、ここにいる!?」


 レオンは思わず怒鳴った。


「それは、こっちの台詞だ!」


 グレイムベア二頭。

 その中央に立つ皇子。

 レオンには、頭が痛くなる光景だった。

 ガレスは、すかさず剣を抜く。


「若様、どうしますか?」


 レオンは深くため息を吐き、目の前の状況を見た。


 傷ついたグレイムベア。


 無傷のグレイムベア。


 そして、血を流している帝国皇子。


「まずは……」


 レオンは額を押さえた。

 まだ、痛みが続いていた。


「その馬鹿皇子を回収する」


 ルーカスが不満そうな顔をする。


「まだ終わっていない」


「終われ!」


 身分を忘れ、思わず叫んだ。

 ガレス達が吹き出す。

 このような状況なのに、何故か少しだけ緊張が解けた。


 だが、グレイムベアは待ってくれない。

 二頭の魔獣が、同時に咆哮する。

 レオンは剣を抜いた。

 そして、ノルディアの精鋭達対グレイムベア二頭の戦いが始まった。

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