第18話 未来を視る眼
辺境伯の執務室でレオンは朝から書類へ目を通していた
騎士団の報告書
備蓄の確認
街道補修の見積書
辺境伯代行になってからの日常だ
昨日の試合の疲れがまだ腕に残っている
ルーカス……帝国の剣
年下とは思えない強さだった
そんなことを考えていた時だった
バンッ!!と執務室の扉が勢いよく開かれた
「若様!」
飛び込んできたのは騎士団長ガレスだった
普段冷静な騎士団長の顔が険しい
レオンは嫌な予感を覚え問いかけた
「どうした?」
ガレスは即座に答えた
「ルーカス殿下が行方不明です」
レオンは思わず額を押さえた
(あー……やったか)
ガレスが苦い顔をする
どうやら同じ感想らしい
「最後の目撃情報は?」
「今朝です」
「帝国の護衛なんと言った?」
「気付いた時には既に姿がなかったそうです」
レオンは天井を見上げる
昨日の試合でわかった性格と
北の戦神を尊敬しているルーカス
嫌な予感しかしなかった
「行き先はやはり……」
「恐らく北の森です」
予想通りだった
レオンは手で目を押さえた
ガレスは続けて話た
「帝国側の護衛によれば昨日の夕食時、レッドボア討伐の話を聞いていたそうです」
レオンは深くため息を吐いた
間違いない……ボア狩りだ
ルーカス・ヴァルハイトは帝国第二皇子
未来の皇帝候補の1人だ
もしノルディア領で死ねば事故では終わらない
帝国がどう受け取るか分からない
最悪戦争に発展する可能性があった
レオンは静かに立ち上がった
「捜索隊は?」
「既に出しています」
ガレスは答える。
「ですが北の森は広いですから見つけるまで時間がかかります」
レオンは眉をひそめた
【時間】その言葉に胸が痛んだ
父の顔が浮かぶ
あと半日たった半日、その差で全てを失った
「時間がないな」
レオンは小さく呟いた
そして視線を執務机へ向けた
引き出しのその奥に洞窟で手に入れた【未来予知の魔眼】のスクロールがある
だが完全には解析できていない
ゲーム通りであれば試してみる価値はある
「若様?」
ガレスが怪訝そうな顔をする
レオンは引き出しを開いた
古びたスクロールそれを手に取る
「少し試す」
レオンは躊躇いなくスクロールを広げた
複雑な古代文字レオンは魔力を流し込んだ
次の瞬間だったレオンの目に激痛が走った
「っ!!」
右目が熱い
まるで焼けた鉄を押し付けられたような痛みが流れた
ガレスが慌てて駆け寄る
「若様!」
「大丈夫だ」
全然大丈夫ではなかった
頭まで痛い上に吐き気もする
それでも視界の奥で何かが見えた
森
折れた木
荒れた地面
倒れたレッドボア
血
そして銀髪の少年
それはルーカスだった
映像は一瞬で消える
レオンは荒い息を吐いた
ゲームではただの案内機能だった
未来予知の魔眼は次に行くべき場所を示すだけだった
だが現実は違う
今見えたのは映像、未来の光景だ
「未来を……見ているのか」
思わず呟いた
もう一度更に魔力を流し込む
先程よりも激痛が全身に走る
頭が割れそうになり視界が白く染まる
だが映像は続いた
ルーカスが剣を振るいレッドボアが吹き飛ぶ
その先に巨大な影……グレイムベアだ
森の王、その巨体がルーカスへ迫る
そして映像はそこで途切れた
レオンの顔から血の気が引く
ガレスが表情を変えた
「何が見えたんです?」
レオンはゆっくり立ち上がるり右目を抑えながら
「北西だ」
「場所が分かったのですか?」
「いや」
レオンは首を振る
「ただ見えただけだ」
その一言でガレスは黙った
詳しくは分からない
だが若様が何かを見た
それだけは分かった
レオンは剣を腰へ差す準備を整える
「行くぞ」
ガレスが頷く
「誰を連れて行きます?」
レオンは迷わない
「エルン」
「はい」
「リック」
「うぃっス」
「ハンス」
「任せろ」
「ドーク」
「……ん」
そして。
「ガレス」
「はっ」
アイテムバックの探索を生き延びた五人
最も信頼できる仲間達だった
「六人で向かう」
「十分ですね」
ガレスが笑いレオンも頷いた
むしろこれ以上はいらない
馬が用意され全員が騎乗する
レオンも手綱を握った
頭痛はまだ消えない右目も熱い
それでも構わない父には間に合わなかった
だが今度は違う
「絶対に見つける」
その呟きにガレス達も頷く
六頭の馬が北の森へ駆け出した
銀髪の馬鹿皇子を回収するために
―その頃―
当のルーカスは倒れたレッドボアの死体の上で剣に付いた血を払っていた
翡翠色の瞳が森の奥を見つめる
そして巨大な唸り声が響いた
ルーカスは口元を吊り上げる
「なるほど」
現れたのはグレイムベア
本来なら討伐隊が総出で相手をする魔獣だがルーカスは笑っていた
新しい玩具が来た子供の様に
「少しは楽しめそうだ」
その瞬間グレイムベアが咆哮した




