間章 理想の人
レオンたちを見送ってから一週間が過ぎた
フェルナード領主邸
夕日が部屋を優しく照らしている
一日の予定を終えたフローラは自室へ戻って来た
扉を閉めるとまず部屋の中を見渡した
右 左 そして窓際
誰もいない事を確認した
「よし」
フローラは小さく頷く
カチャリと扉へ鍵を掛けた
その瞬間 普段の穏やかな表情が一気に崩れる
「疲れたってーの!」
勢いよくベッドへ飛び込む
ふかふかの布団へ顔を埋め
大きく息を吐いた
「もう無理……」
しばらくそのまま動かない
やがて仰向けになるとぼんやりと天井を見つめた
今日も朝から忙しかった
お父様から領地経営を学び
港へ足を運び
商人との打ち合わせを見学し
夜は魔法の勉強
気付けば今日も一日が終わっていた
「あの人は……」
フローラは小さく呟く
「こんなことを毎日してたんだ……」
自分はまだ勉強しているだけ
それでも覚えることは山ほどある
レオンはそれらを毎日こなしながら
領民一人一人の話へ耳を傾け
笑顔を絶やさず 誰よりも先に動いていた
「本当にすごい人だな……」
自然と笑みが零れる
その時だった 一週間前の出来事が頭に浮かぶ
本当の自分を知られてしまったあの日
少しだけ不安だった
嫌われるかもしれない
笑われるかもしれない
馬鹿にされるかもしれない
そう思っていた
だがレオンは普段と変わらず接してくれた
それに最後の日に言われた一言を思い出す
『俺達なら気にしなくていい』
『フローラのその話し方も好きだぞ』
「~~~~っ!」
思い出した瞬間 顔が一気に熱くなる
布団へ顔を押し付け足をばたばたさせた
「あんなこと普通言う……?反則だっつーの……」
しばらく悶えていると今度は自分が口にした言葉を思い出す
『まあ……顔はいいけど……』
『でも男は強くなくちゃ意味ないっつーの!』
あれは本当の自分の理想だった
フローラにとって強い人とは ただ剣が強い人ではない
父カミュのようにどんな困難にも立ち向かう逞しさ
家族を守り抜く強さ
そしてレイモンドのように誰にでも優しく人の話へ耳を傾け 皆から信頼される芯のある強さ
そんな人がずっと理想だった
「そういえば……」
あの日クロエが笑いながら言っていた
『それに レオンとレイモンドさんって何だか似てるでしょ?』
その言葉と共にレオンの姿が頭へ浮かぶ
黒マントへ立ち向かった姿
誰よりも先に皆を守ろうとした姿
本当の自分を知っても誰にも話さず
今までと変わらず接してくれた優しさ
領民一人一人の話へ耳を傾け
皆が幸せになれる方法を考え続ける姿
「あ……」
自然と胸へ手を当てる
今まで気付かなかった
いや 気付かないようにしていただけだったのかもしれない
「私の理想の人って……」
頬が少しずつ赤く染まっていく
「レオン様だったんだ……」
胸の鼓動が少しだけ速くなる
その時 一週間前 店の片付けを終えた夜のことを思い出した
店を閉め終えたカミュが
大きく笑いながら言った
「そうだ! 今日もまた泊まっていきな!」
その一言が原因で 私とクロエさんとお母さんとの恋愛話になったのだった
窓の外へ視線を向ける
夕焼けに染まる空を眺めながらフローラは小さく呟く
「どうやって早く会いに行こうかな……」
今はただ一日でも早くレオンへ会いたかった
まさか自分の一言が後にブロドを驚かせることになるとはまだ知る由もなかった




