第183話 港町との別れ
翌朝港町には爽やかな潮風が吹いていた
魚屋の店先ではカミュが木箱を運び
開店の準備を進めている
店の奥からは焼き魚の香ばしい匂いが漂ってきた
「レオン君!クロエちゃん!フローラ!朝飯できたよ!」
マリナの声が店中へ響く
「今行きます」
レオンは部屋から姿を現した
その後ろからクロエそしてフローラも続く
昨日とは違い フローラの表情は明るかった
五人は食卓へ着く
焼き魚
味噌仕立ての魚汁
漬物
炊きたての白いご飯
朝から豪華な食卓だった
「いただきます」
食事が始まる
カミュは焼き魚を頬張りながら笑う
「今日は天気もいい!漁日和だ!」
フローラも笑顔で頷いた
「今日ならいっぱい獲れそうだな!」
「おう!その調子だ!」
マリナは嬉しそうに二人を見ている
クロエも微笑んだ
「やっぱり……フローラはその話し方が僕は好きだよ」
フローラは少し照れ笑いを浮かべた
「昨日いっぱい話したらさ……なんか敬語の方が疲れちゃって」
レオンは苦笑する
「無理する必要はない レイモンドさんの前だけ切り替えればいい」
「うん!」
フローラは元気よく返事をする
その姿にカミュとマリナは顔を見合わせ
嬉しそうに笑った
食事を終え お茶を飲んでいると
店の外から馬の足音が聞こえてきた
カラカラと車輪が止まる音
カミュは外を見る
「あれ?……迎えが来たみたいだ」
レオン達も店の外へ出る
そこには商会の馬車が止まっていた
御者台から降りて来たのはブロドだった
「レオン様お迎えに参りました」
レオンは頷く
「ありがとう」
ブロドは一礼する
「保温箱の納品も無事終わりましたのでご安心下さい」
レオンは安心したように笑った
「港の様子はどうだった?」
ブロドも笑みを浮かべる
「漁師の皆様が大変驚いておられました 昨日獲れた魚が今日になっても鮮度を保っていると こんな箱は見たことがないと口々に仰っておりました」
カミュも笑う
「早朝に漁師仲間が何人も見に来てたからな……みんな箱を覗き込んで驚いてたぞ」
ブロドは頷いた
「まだ使い始めたばかりですが手応えは十分ございます」
レオンは満足そうに頷いた
「それなら良かった」
ブロドは微笑みながら荷台へ視線を向けた
「では そろそろ荷物を積みましょうか?」
ブロドは微笑みながら荷台へ視線を向けた
「ああ ありがとう」
レオン達は荷物を馬車へ運び始める
その時だった
「そうだ!」
カミュが何かを思い出したように声を上げる
「ちょっと待ってろ!」
そう言うと店の奥へ駆け込んでいく
しばらくして 両手いっぱいの木箱を抱えて戻って来た
「レオン坊!これ持っていきな!」
木箱の中には 銀色に輝く魚が何匹も並んでいた
「今朝一番に獲れた魚だ!ノルディアじゃなかなか食えねぇ魚も入ってるぞ!」
レオンは嬉しそうに笑う
「ありがとうございますありがたく頂きます」
カミュは照れくさそうに頭をかいた
「世話になった礼だ……遠慮すんな」
レオンは木箱へ手をかざす
淡い青白い光が溢れ
魚の周囲だけを優しく包み込むように氷が現れた
パキッ……
澄んだ音を立て透明な氷が魚を冷やしていく
カミュは目を丸くした
「おぉ……すげぇな……これなら帰るまで鮮度も落ちねぇ」
レオンは頷く
「ゆっくり溶けるようにしました 道中も凍らせながらだとノルディアまで問題ありません」
クロエは木箱を受け取ると笑顔でアイテムバッグへしまう
「これで大丈夫!帰ったらみんなにも食べてもらおう!」
マリナは感心したように頷く
「夜に聞いてたけど 本当に便利な鞄だねぇ……羨ましいよ」
荷物を積み終え
いよいよ別れの時間がやって来た
フローラは一歩前へ出る
背筋を伸ばし
綺麗に一礼した
「昨日はありがとうございました 短い間ではございましたが とても楽しい時間を過ごさせていただきました」
その姿を見たクロエは
思わずくすりと笑う
「あっお嬢様モードだ」
「あっ……」
フローラは照れたように頬を赤くした
「もう……クロエさん」
レオンも苦笑する
「本当に切り替えが早いな」
フローラは恥ずかしそうに笑った
「伯爵家ではこちらの話し方をするように教わっていますので」
レオンは優しく頷く
「そのままのフローラも今のフローラも どっちもフローラだからな」
フローラは嬉しそうに微笑んだ
「ありがとうございます」
レオンとクロエは馬車へ乗り込む
ブロドも御者台へ座った
「それでは 出発いたします」
馬車がゆっくりと動き始める
カミュは大きく手を振った
「また魚買いに来いよ!」
「はい!その時はよろしくお願いします!」
クロエも窓から身を乗り出す
「また遊びに来るね!」
「いつでもおいで!」
マリナは笑顔で手を振り返す
やがて馬車は少しずつ遠ざかっていく
それを見送りながら マリナがぽつりと呟いた
「本当に……レオン君は貴族なんだね」
カミュも静かに頷く
「ああ……普段は忘れちまうけどな 辺境伯様なんだよな」
少し寂しそうに笑ったマリナは隣のフローラを見た
「フローラ」
「何?」
「あんた レオン君と結婚しな」
「えぇっ!?」
フローラは飛び上がる
マリナは悪戯っぽく笑った
「そうすれば"また帰って来てくれる"だろ?」
フローラは耳まで真っ赤に染め
「な、何言ってるんだよ!……もう!」
と慌てふためく
カミュは腹を抱えて笑った
「ははは!それも悪くねぇな!」
港町には三人の笑い声がいつまでも響いていた




