第179話 最後の約束
レイモンドと別れた後
フローラは勢いよく病室へ駆け込んだ
「お祖父ちゃん!」
エドガーはゆっくりと目を開ける
「おや?そんなに慌ててどうしたんじゃ」
フローラは息を切らしながら笑った
「領主さまが 治療費出してくれるって!だからもう大丈夫 絶対治るよ!また一緒にお魚作ろう!いっぱい魔法教えて」
エドガーは優しく微笑んだ
「……そうか 良かったのう」
フローラは嬉しそうに何度も頷く
「うん!それでね 領主さまのお家の子になるんだって お祖父ちゃんが元気になったら行くの……だから心配しないで」
エドガーは少しだけ驚いた表情を浮かべた
「養女になるのか……」
「うん!おじいちゃんを助けてくれるなら何でもするって言ったから」
エドガーは静かに目を閉じた
しばらく考えるように沈黙し
やがてゆっくり頷く
「そうか……レイモンド様なら安心じゃ」
フローラは嬉しそうに笑う
「うん!優しい人だったよそれにね お祖父ちゃんとお父さんとお母さんといっぱい思い出を作ってから行きなさいって言ってくれたの」
その言葉を聞いた瞬間
エドガーは小さく笑った
「本当に優しいお方じゃな……領民を大切にしてくださる立派な領主様じゃ」
それからの日々フローラは朝から晩まで祖父の傍にいた
水魔法を見せたり
病室の花へ水をあげたり
カミュとマリナも忙し中毎日病院へ通った
四人で笑い合う時間が増えた
だがエドガーは日に日に衰えていった
しかしその表情だけは穏やかだった
ある日の夕方
窓から夕日が差し込んでいた
エドガーは静かにフローラを呼ぶ
「フローラ」
「なあに?」
「少し……手を貸しておくれ」
「うん!」
フローラは祖父の手を握った
もう昔のような力はない
細く温もりも弱くなっていた
エドガーは優しく微笑む
「フローラ……これから先辛いこともあるじゃろう 悲しいこともある……それでも人を恨む子になってはいかん」
フローラは静かに頷く
「うん」
「水魔法は"人を助けるため"に使いなさい お前ならきっとたくさんの人を笑顔にできる」
フローラの目に涙が浮かぶ
「うん……約束する!」
エドガーは安心したように目を細めた
「それから……レイモンド様を困らせるんじゃないぞ?立派な娘になるんじゃ」
フローラは涙を流しながら笑う
「うん!いっぱい頑張る!だからお祖父ちゃんも頑張って!まだ一緒にお魚作るんだから」
エドガーは小さく笑った
「そうじゃな……また作ろう……」
その言葉を最後にエドガーは静かに目を閉じた
「お祖父ちゃん?」
エドガーからの返事はない
「お祖父ちゃん……?」
肩を揺するが動かない
「お祖父ちゃん!起きて!ねぇ!約束したじゃん!お魚作るって!……起きてよ……」
何度呼んでも返事は返ってこなかった
フローラは祖父へしがみつき
声を上げて泣いた
「お祖父ちゃぁぁぁん!」
病室には幼い少女の悲痛な泣き声だけがいつまでも響き続けていた




