第174話 戦いの後
焼け焦げた倉庫には まだ焦げた木の匂いが漂っていた
レイモンドはマリナとカミュの前まで歩み寄る
二人はまだ状況を整理しきれていない様子だった
レイモンドは穏やかに微笑む
「お二人とも ご無事で何よりです」
マリナは深く頭を下げる
「伯爵様……ご迷惑をお掛けしました」
レイモンドは静かに首を横へ振る
「お気になさらないでください お二人を救ったのは私ではありません」
そう言うとレオンへ視線を向ける
「こちらのお方はノルディア辺境伯 レオン・ノルディア様です」
その言葉にマリナもカミュも固まった
「……え?」
思わずレオンを見る
前に魚を買いに来た青年
一緒に食事をした青年
命懸けで助けてくれた青年
ずっと平民だと思っていた
マリナは信じられないという表情でレイモンドを見る
「伯爵様……レオン君は……辺境伯様なんですか……?」
レイモンドは静かに頷く
「ええ ノルディア領を治める辺境伯様です 今回もお二人を救うため真っ先に駆け付けてくださいました」
その瞬間マリナとカミュの顔色が変わる
二人は慌ててその場へ跪いた
「も……申し訳ありません!辺境伯様とは知らず……!」
カミュも深く頭を下げる
「数々のご無礼をお許しください!平民の私共が……」
マリナは震える声で続けた
「前も今回も……ずっとレオン君なんて呼んでしまって……」
「「本当に申し訳ございませんでした」」
レオンは困ったように頭を掻く
「頭を上げてください 自分から身分を名乗らなかったんです お二人が謝ることじゃありません」
ようやく二人が顔を上げた
その時だった マリナの表情が固まる
「……あっ」
額から一筋の冷や汗が流れた
「どうした?」
カミュが不思議そうに尋ねる
マリナは青ざめた顔のまま ゆっくりとクロエを見る
黒マントとの戦いで聞いた言葉が頭をよぎる
『そこの公爵の娘の時も』
「あれって……」
小さく呟いた
クロエは首を傾げる
「マリナさん?」
次の瞬間 マリナは勢いよくその場へ土下座した
「申し訳ありませんでしたぁっ!!」
「えっ!?」
突然のことにクロエは目を丸くする
カミュも状況が分からず慌てる
「お、おい!?どうしたんだ?」
マリナは顔を上げられないまま叫んだ
「お嬢様とは知らず!うちに娘婿に来てほしいなんて!とんでもないことを言ってしまいました!」
その言葉でカミュも黒マントの言葉を思い出した
「……公爵の娘」
顔が引きつる
「ま、まさか……」
カミュも慌ててマリナの隣へ並び
勢いよく土下座した
「申し訳ありませんでした!本当にご無礼を!」
クロエはきょとんと二人を見つめる
そして思わず吹き出した
「ぷっ……ふふっ……そんなに謝らなくていいよ 僕は今はただのクロエだから……今まで通り接してくれた方が嬉しいな」
マリナとカミュは恐る恐る顔を上げる
まだ申し訳なさそうな表情は消えない
レオンは苦笑しながら二人の前まで歩いて来た
「二人ともそんなに気にしないでください」
マリナは慌てて頭を下げる
「で…ですが辺境伯様に……」
レオンは首を横へ振る
「辺境伯とか貴族とか今は関係ありません」
少し照れ臭そうに笑う
「私は娘婿にならないか?と聞かれた ただ漁師の才能があるレオン坊ですよ マリナさんカミュさん」
一瞬静かな時間が流れた
マリナの目に涙が浮かぶ
「レオン君……」
カミュも思わず笑みをこぼした
「そう言われたらまたレオン坊って呼ぶしかないな」
レオンは優しく微笑みながら頷く
「はい その方が俺もも嬉しいです」
そのやり取りを見ていたクロエも思わずくすりと笑った
張り詰めていた空気はようやくいつもの穏やかな空気へと戻っていった




