第173話 爆炎
「……潮時か」
黒マントは静かに呟いた
レオンは剣を構えたまま動かない
「逃がさない」
レオンは一歩踏み出す
だが黒マントはゆっくりと左手を掲げた
その掌へ莫大な魔力が集まり始める
ゴォォォ……
空気が震える
倉庫の温度が一気に上昇した
クロエの表情が変わる
「レオン!離れて!」
レオンも異変を察する
今までとは比べものにならない魔力だった
黒マントは静かに呟く
「消えろ」
次の瞬間轟音と共に爆発が起きた
紅蓮の炎が倉庫全体を飲み込む
床が吹き飛び柱が軋む
天井へ火柱が突き抜けた
「きゃあっ!」
マリナが悲鳴を上げカミュは咄嗟に覆い被さった
クロエも思わず目を閉じる
だがレオンだけは動いていた
「間に合え!」
右手を天へ突き上げる
莫大な魔力が一気に放出された
地面から無数の巨大な氷柱がせり上がる
轟音と共に倉庫の四方を囲むように巨大な氷壁が形成されていく
正面 左右 背後 そして天井まで一瞬で巨大な氷が炎を閉じ込めた
ゴォォォォッ!!
と紅蓮の炎が氷壁へ激突する
凄まじい熱で氷が音を立てて溶け始める
蒸気が辺り一面へ広がった
しかし炎は外へ漏れない
レオンは歯を食いしばる
「まだだ!」
さらに魔力を流し込む
溶けるより早く新たな氷が生成される
やがて爆炎は少しずつ勢いを失っていった
轟音が止み残ったのは辺り一面を覆う白い蒸気だけだった
レオンは荒く息を吐く
「はぁ……はぁ……」
氷壁には無数の亀裂が走っている
あと少し遅ければ倉庫ごと焼き尽くされていただろう
蒸気が少しずつ晴れていく
レオンはすぐに剣を構え直した
「……!」
黒マントの姿がない
入口も窓もどこにもいなかった
「……逃げられた」
レオンは悔しそうに拳を握る
その時だった
「レオン様!マリナさん!カミュさん!」
倉庫の入口からフローラが駆け込んでくる
その後ろにはレイモンドとフェルナード騎士団の姿もあった
フローラは皆の無事な姿を見つけると
安堵したように表情を緩める
「ご無事で……良かった」
だがその言葉の途中で足を止めた
その横を一人の少女が走り抜けていく
「レオン!」
クロエだった
迷うことなくレオンの前まで駆け寄る
そのままレオンの腕を掴む
「良かった……本当に良かった……」
レオンはまだ黒マントが消えた方向を見つめたまま
振り向かない
「ああ 皆 無事で良かった」
短くそう答える
クロエはその声を聞き
ようやく気付いた
レオンの右手の剣を握る手が小刻みに震えている
恐怖ではない さっきまで放たれていた一撃一撃
その全てに相手を殺す覚悟が込められていたことをクロエだけは知っていた
レオンは自分達を守るため
黒マントを殺す覚悟で戦っていたのだ




