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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
フェルナードの聖女と覚悟
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第172話 守る覚悟

倉庫の中は静まり返っていた

レオンはゆっくりと立ち上がる

痺れた腕が震えている

黒マントは一歩ずつ距離を詰めてきた

焦る様子はない

まるで勝敗は決まったと言わんばかりだった


「どうした?もう終わりか?」


レオンは剣を握り直す


「まだだ」


短く答え再び踏み込んだ


ギィィンッ!!


と剣と剣がぶつかり火花が散る

レオンは未来予知魔眼で斬撃を読み

最小限の動きで躱し続ける

だが押し返せない

受けるのが精一杯だった

黒マントの剣は一撃一撃が重い

速いだけではない確実に相手を殺すための剣だった


ギィィンッ!!


再び押し返される


「ぐっ……!」


床を滑る

その瞬間 レオンの脳裏へ二人の男の姿が浮かんだ


父 グラニウス・ノルディア

幼い頃 討伐隊の報告書へ目を通していた姿


『今回の討伐で三名死亡しました』


『負傷者十二名です』


父は静かに目を閉じ


「そうか」


それだけ答えていた

当時は冷たい人だと思った

もっと悲しめばいい

もっと怒ればいい

そう思っていた

だが今なら分かる

父は誰よりも苦しんでいた

それでも討伐隊を送り出した

魔物を放置すればもっと多くの領民が死ぬと知っていたから


レオンはもう一人を思い浮かべた


祖父 ヴァルグ・ノルディア


ゼムから聞いた話だ

帝国軍四万を相手に一人で立ちはだかった男

王国を守るため 迷うことなく剣を振るった

何万人死のうと

国を守るためなら斬った



そして父も領民を守るために部下が死ぬと分かっていて送り出した

レオンは黒マントの剣を受けながら

小さく息を吐く


「そうか……」


今まで自分だけが違った

魔物も盗賊もクロエの時の傭兵もなるべく傷付けないように戦ってきた

殺さないように命を奪わないように

それが正しいと思っていた

だがその甘さが今マリナとカミュそしてクロエを危険へ晒している

黒マントは無言のまま剣を振るう


ギィィンッ!!


再び斬撃を受け止める

レオンは歯を食いしばった


「俺には……覚悟が足りなかった」


守るということは誰かを傷付けることもある

誰かを殺さなければ 守れない命もある

それが"辺境伯の剣"

グラニウスの剣やヴァルグの剣だった

レオンは静かに剣を握り締める

その青い瞳から迷いだけが消えていた

レオンは息を吐く

黒マントは剣を構えたまま小さく鼻で笑った


「何か変わったか」


レオンは答えない

ただ静かに黒マントを見据える

次の瞬間 黒マントが踏み込んだ

床板が砕けるほどの勢い

細身の剣が一直線に喉を狙う

だがレオンは動いた 最小限の動きで斬撃を躱す

同時に右手を振る

無数の氷柱が一瞬で生成された


「っ!」


今までとは違う

黒マントの目が僅かに細くなる

氷柱は回転しながら一直線に飛んだ

高速回転することで空気を切り裂き 凄まじい貫通力を生み出している

黒マントは炎を放つ

だが炎の渦から一本の氷柱が貫いた

男は身体を捻って回避する

その隙をレオンは見逃さない

一気に距離を詰めた


ギィィンッ!!


剣と剣が激しくぶつかる

今度は違う受けるだけではない

レオンから攻めていた

そして黒マントの首 心臓 喉 脇腹

急所だけを狙った鋭い突きを放っついく

黒マントは紙一重で躱していく


「……そうか」


黒マントが初めて後ろへ下がる

レオンは止まらない 直ぐさま氷柱を生成する

以前の何倍もの速度だった

一本 二本 三本 休むことなく放たれる

黒マントは炎で迎え撃つ

氷と炎が激しくぶつかり合う

蒸気が倉庫中へ広がった

クロエは目を見開く


「レオン……」


さっきまで押され続けていた

そのレオンが今は黒マントを押し返している

マリナも息を呑む


「凄い……」


黒マントは炎を纏った剣で氷柱を斬り払う

しかしレオンの生成速度が速過ぎる

炎を放った瞬間には次の氷柱が迫っていた


「ふっ!」


黒マントは初めて大きく後退する

距離を取ったのだ

レオンは剣を構えたまま静かに男を見据える

黒マントも剣を下ろさない

二人は互いに一歩も譲らない

倉庫の中へ再び重い沈黙が流れた

その均衡を破ったのは倉庫の外から聞こえた声だった


「レオン様!」


聞き覚えのある声だ

それは青い髪と蒼い目のフローラだった

続いて 複数の足音が響く


「急げ!」


「こちらです!」


レイモンドの声が倉庫に響く

さらに騎士達が倉庫へ駆け込んでくる音が聞こえた

黒マントはゆっくりと倉庫の入口へ視線を向ける

そして小さく息を吐いた


「……潮時か」


その声はどこか残念そうにも聞こえた

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