第165話 共同事業
明日から0時と12時の2話投稿になります
一応6章は書き終わったのですが7章をどっちから書くか迷って執筆が止まっております
すみません
一週間後 フェルナード領の倉庫には
レオン
クロエ
ブロド
レイモンド
そして鍛冶工房の責任者ガングが集まっていた
倉庫の中央には二つの箱が並んでいる
一つは普通の鉄箱もう一つはガング達が
一週間かけて作り上げた保温箱だった
外側は鉄 内側も鉄
その間には木材が挟まれ
さらにレイモンドの風魔法で可能な限り空気を抜く構造になっている
完全な真空ではない
だが この世界で初めて作られた保温箱だった
ガングは腕を組み
落ち着かない様子で二つの箱を見比べている
「さて……どうなっているか」
レイモンドも静かに頷いた
「同じ大きさの氷を入れて 同じ時間だけ置きました 中の条件は同じです」
レオンは箱を見つめる
「なら結果も分かりやすいな」
まずガングが普通の鉄箱へ手を掛け蓋を開ける
中には半分以下に小さくなった氷が残っていた
底には水が溜まり 氷の角は丸く溶けている
ガングは頷く
「普通ならこの程度でしょう」
レイモンドも中を覗き込む
「やはり鉄箱だけでは冷気が逃げますね」
次に保温箱の前へ移動する
倉庫の中が静まり返った
ガングがゆっくりと蓋を開ける
その瞬間 白い冷気がふわりと漏れ出した
中には ほとんど形を保ったままの氷が残っていた
普通の鉄箱とは比べ物にならない
ガングは目を見開いた
「これは…ここまで違うのか……」
レイモンドも息を呑む
「予想以上ですね」
クロエは嬉しそうに笑った
「大成功じゃない?」
ブロドも驚きを隠せない
「これほど差が出るとは……」
レオンは保温箱の中を覗き込み
小さく頷いた
「完全じゃないが十分だ これなら実用化出来る」
ガングは保温箱へ手を置いた
「鉄と鉄の間に木材を挟むだけでも効果はあると思っていました……ですが空気を抜くという考えが加わるだけで ここまで変わるとは」
レイモンドはレオンを見る
「レオン辺境伯様の発想が無ければ この結果は出ませんでした」
レオンは首を横へ振った
「俺は考えを出しただけだ 形にしたのはレイモンド伯爵とガング達だ」
ガングは豪快に笑う
「いやいや 発想が無ければ職人は何も作れません」
「これは間違いなく レオン辺境伯様の功績です」
レイモンドは保温箱を見つめたまま静かに言った
「これが量産出来れば ポートミルの魚は鮮度を落とさずに王都まで届きます」
ブロドは商人の顔になる
「王都だけではありません 冬には教国や魔導王国へも販路を広げられる可能性があります」
クロエも頷いた
「それにノルディアもボア肉を教国に運べる様になるかもしれない」
「今までより美味しいまま運べるなら 値段も上げられるかもしれないね」
レオンは頷く
「ああ 冬にノルディアで氷を作る それを保温箱でポートミルへ運びポートミルでは魚を冷やし 王都や他国へ運ぶ そうすればノルディアは氷を売れ フェルナードは魚を遠くへ売れる…………どちらにも利益が出る」
レイモンドは深く頷いた
「まさに共同事業ですね」
ガングは保温箱の蓋を閉める
「量産するなら 工房を少し整える必要があります 鉄板の加工 木材の選定 風魔法を使う工程 どれも職人に覚えさせなければなりません」
レイモンドは即座に答えた
「必要な費用は伯爵家で出します フェルナード領の新しい産業になるのです惜しむ理由はありません」
ガングは力強く頷いた
「承知しました」
レイモンドはレオンへ向き直る
「レオン辺境伯様 この保温箱を フェルナード領で量産させていただけませんか?」
レオンは少し考え
静かに頷いた
「ああ 俺は構わない」
レイモンドの表情が明るくなる
「ありがとうございます」
レオンは続ける
「ただし 一つ条件がある」
倉庫の空気が少し引き締まった
レイモンドは真剣な表情で頷く
「何でしょう」
レオンは保温箱へ視線を向けた
「ノルディア領へ優先的に販売してほしい 冬に氷を運ぶなら かなりの数が必要になる その時に数が足りないと困るからな」
レイモンドはすぐに頷いた
「もちろんです その条件は当然でしょう……では ノルディア領への優先販売をお約束します」
レオンは小さく頷く
「それなら問題ない」
その時 レイモンドが少し考え込むように目を伏せた
そしてゆっくりと口を開いた
「でしたら 私からも一つ提案があります」
レオンはレイモンドを見る
「提案?」
レイモンドは静かに頷いた
「はい この保温箱の販売利益の一部を 技術使用料としてノルディア領へお支払いさせてください」
その場が静まり返る
クロエが目を丸くした
「技術使用料?」
ブロドも驚いた表情を浮かべる
レオンは少し考え込む
「そこまでは考えていなかったが……どういう理由だ?」
レイモンドは保温箱へ視線を向けた
「理由は二つあります 一つ目は この保温箱はレオン辺境伯様の発想があったからこそ完成した物だからです ですが……」
そこで一度言葉を区切る
「本当の理由は二つ目です」
全員がレイモンドへ視線を向けた
「もしこの保温箱で利益を得るのがフェルナード領だけなら他の貴族はどう思うでしょうか?」
ブロドはすぐに理解した
「……独占」
レイモンドは頷く
「ええ『他領の技術を使い 自分達だけが利益を得ている』そう受け取る貴族も必ず現れます……共同事業だったとしても利益がフェルナードだけへ集まるように見えれば 余計な反感を買うでしょう」
クロエも納得したように頷く
「なるほど……そういう見方をする人もいるんだ」
レイモンドは苦笑する
「領主とは商売だけではありません 周囲との関係も守らなければならない立場です ですが技術使用料として利益の一部をノルディア領へお支払いすれば話は変わります これはフェルナードだけの事業ではなくノルディア領との正式な共同事業になります そうなれば誰も文句は言えません」
レオンは感心したように笑った
「そこまで考えていたのか」
レイモンドも微笑む
「商人ほどではありませんが長年領主として学んできましたから」
レオンは腕を組み少し考える
「確かに理にかなっている……クロエはどう思う?」
クロエは少し考えてから頷いた
「私は賛成!教国とのポーション事業も同じ形だしね 共同事業だって分かりやすいよ」
ブロドも続ける
「私も賛成です 他領との共同事業であることが明確になれば 今後販路を広げる時も信用を得やすくなります」
レオンは笑みを浮かべた
「みんな賛成なら決まりだな」
そしてレイモンドへ向き直る
「利益は何パーセントを考えている?」
レイモンドは迷わず答えた
「五パーセントです 決して多くはありません ですが長く事業を続けるなら十分な額になるでしょう」
レオンは頷いた
「それでいい こちらも納得だ」
レイモンドは安心したように息を吐く
「ありがとうございます」
クロエはブロドを見て笑った
「じゃあ仕事だね」
ブロドは苦笑する
「やはり最後は私ですか……」
「商人ですから」
「契約書くらいは働かせていただきます」
机が用意され
ブロドはペンを走らせる
契約内容は細かく書き込まれていく
保温箱の製造はフェルナード領
ノルディア領への優先販売
販売利益の五パーセントを技術使用料としてノルディア領へ支払うこと
そして 両領地による共同事業であること
すべてを書き終えるとブロドは契約書を二人へ差し出した
「ご確認ください」
レオンとレイモンドは内容を確認し
それぞれ署名を記す
契約書を交換するとレイモンドは立ち上がった
そして右手を差し出す
「レオン辺境伯様 これから末永くよろしくお願いいたします」
レオンも笑みを浮かべ
その手を力強く握り返した
「ああ お互い領地を発展させよう」
固く交わされた握手
それは ノルディア領とフェルナード領
二つの領地を結ぶ新たな共同事業の始まりだった




