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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
フェルナードの聖女と覚悟
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第164話 一週間

保温箱の試作品が完成するまで約一週間

その間 レオン達はフェルナード伯爵邸へ滞在していた

フローラはその一週間で 不思議な光景を毎日見ることになる



まだ空が薄暗い早朝

窓を開けるとひんやりとした潮風が部屋へ流れ込む

港からは漁へ向かう船の鐘が小さく響いていた

その音に混じって乾いた音が聞こえる


ガンッ!!


ガンッ!!


フローラは音のする方へ視線を向けた

視線の先は訓練場だった

朝靄の中 一人の少年が木剣を振っている

レオン・ノルディアだった

足を止めることなく踏み込み 振る 戻す また振る

それを何度も繰り返していた

額から汗が流れ 肩で息をしている

それでも木剣を止めない

フローラは窓辺へ近付く


「またやってる……」


これで何日目だろう

毎朝 同じ時間 同じ場所

誰に見られる訳でもないのに一人で鍛錬を続けている


「辺境伯なのに……」


思わず呟いた

すぐに小さく笑う


「毎朝こんな時間から鍛えてるのかよ……」


誰も聞いていない

だから自然と素の口調になっていた

その頃にはレオンの服は汗で濡れていた

一度木剣を下ろす

終わったのかと思えば

今度は素振りではなく足運びの確認を始める

前へ後ろへ横へ滑るように地面を蹴る


「休まないのかよ……」


フローラは呆れたように呟いた

だが その視線は自然とレオンを追ってしまう

やがて朝食の時間になり

レオンは汗を拭きながら邸へ戻っていった




レオンはレイモンドと共に工房へ向かった

フローラも後ろから付いて行く

工房へ入ると熱気が全身を包んだ


ガンッ!!


ガンッ!!


鉄を打つ音が辺りへ響く

責任者のガングは試作品を前に腕を組んでいた


「もう少し鉄板を薄くしてみましょう」


「その代わり間へ入れる木材を厚くします」


レオンは試作品を手に取り 細かく眺める


「この辺りはもっと密閉出来そうだな」


レイモンドも頷く


「風魔法を流す穴も小さくしてみましょう」


三人は何度も意見を交わす

誰かが命令する訳ではない

思ったことを言い合い

より良い物を作ろうとしていた

ガングは豪快に笑う


「こんな仕事は初めてです!完成が楽しみになってきました」


レオンも笑った


「俺もだ」


工房を出ると 今度は港へ向かう

潮風が頬を撫でる

港には水揚げされた魚が並び 漁師達が忙しそうに働いていた

レオンはその中へ自然と入って行く


「最近漁獲量はどうだ?」


年配の漁師が笑う


「今年は悪くねぇよ!ただ王都まで運ぶ間に傷む魚が多くてな!」


レオンは真剣な表情で頷く


「保温箱が完成すれば改善出来るかもしれないな」


「期待してるぜ」


別の漁師も声を掛ける


「辺境伯様の所もボア肉も運ぶんだって?」


「ああ 魚も肉も鮮度が落ちなければもっと売れる 領地も潤うはずだ」


フローラは少し驚いていた

辺境伯なのに平民達と壁を作らない

皆もまるで昔から知っている相手のように笑って話している


「ほんと……」


フローラは小さく呟く


「領地のことしか考えてねぇんだな……」


最初は変な辺境伯だと思っていた

でも この数日で見てきたレオンは噂で聞いていた貴族とはまるで違っていた

誰よりも早く起き

誰よりも働き

領民の声を聞き続ける

そんな十五歳の辺境伯をフローラは初めて見た





夜になると伯爵邸は静けさに包まれる

昼間賑わっていた廊下も人通りが少なくなり

聞こえてくるのは窓の外から響く波の音だけだった

フローラは本を閉じ 小さく息を吐く


「あ……」


今日もだった

客室の方から淡く青い光が漏れている


「また訓練してるのかよ」


誰に聞かせるでもなく呟く

気になって足が向く

客室の扉は少しだけ開いていた

中を覗くとレオンは一人で魔術の訓練をしていた

右手へ魔力を集め

小さな氷を作る

消しては また作る

それを何度も繰り返している

氷の大きさは毎回同じで形も崩れない


「すげぇな……」


思わず声が漏れた

その声に気付いたレオンが振り返る


「フローラか?……入るか?」


「うん」


フローラは素早く咳払いをした


「こほん…………失礼します」


さっきまでの素の口調はどこかへ消え

いつものお嬢様へ戻る

レオンは苦笑した


「今日は魔力操作をやるか」


「はい」


フローラは椅子へ座る

レオンはコップへ水を注いだ


「魔法は属性より魔力操作が大事だ 魔力が安定すれば魔法も安定する」


フローラは頷き

魔力を流し始める

だが途中で魔力が乱れた


パチッ


小さく弾け指先が切れる


「あっ」


赤い血が一滴落ちた

レオンは慌てることなく手を取る

淡い光が傷を包み込み 傷はゆっくりと塞がり始める

数秒後には何事も無かったように綺麗に消えていた

フローラは目を丸くする


「レオン様も回復魔法まで使えるんですか?」


レオンは頷いた


「ああ 教国の枢機卿 セリオスさんから教わった まだ初歩だけどな」


フローラは驚いた

剣も強い

氷魔法も使える

領地経営まで出来る

その上 回復魔法まで扱える


「本当に何でも出来るんですね」


レオンは苦笑する


「そんなことはない……出来ないことの方が多い だから毎日鍛えてる」


その言葉にフローラは返事が出来なかった

朝は剣を振り

昼は領地のために動き

夜は一人で努力を続ける

その合間に自分へ魔術まで教えてくれる


「今日はここまでにしよう」


「ありがとうございました」


フローラは頭を下げ

客室を後にした

廊下を歩きながら

ふと数日前の出来事を思い出す

客室へ来た時 ベッドへ飛び込み思い切り素を出してしまった


『もう!』


『マジでやってらんねー!!』


そう叫んだ瞬間 レオンと目が合った

思い出しただけで顔が熱くなる


「あの時は終わったと思ったんだよな……」


誰もいない廊下で小さく呟く

だけどあの日から今日までレオンは何も言わなかった

態度も変わらない

からかうこともない

もちろん お父様へ話した様子も無かった


「ほんとに黙っててくれてるんだな……」


普通なら一回くらいは笑う

少しくらいからかう

それなのに何事も無かったように接してくれる


「変なやつだな……」


自然と笑みが零れた

最初は顔だけの辺境伯だと思っていた

頼りない人だと思っていた

でも今は違う

誰よりも努力して

誰よりも領民を想い

人の秘密まで守ってくれる


「あたし……」


窓の外を見る

月明かりの下の訓練場では

今日もレオンが木剣を振っていた


「見る目なかったな」


そう呟いたフローラの表情は初めて会った時よりずっと柔らかくなっていた

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