第162話 氷を知らない少女
二人は先程の事を無かった事にして椅子に座った
レオンは机の上へコップを二つ並べた
片方へ水を注ぐ
フローラは隣で真剣な表情を浮かべていた
「それじゃ始めるか」
「はい」
フローラは姿勢を正す
レオンはコップの水を見ながら話し始めた
「氷っていうのは 水が冷えて固まった状態だ 俺の氷魔法は水属性をさらに冷やして作っている」
フローラは小さく頷く
「はい」
「フェルナードじゃ見る機会は無いだろうけど ノルディアの冬は川も湖も全部凍る」
フローラは目を丸くした
「全部……ですか?」
「ああ」
「寒い年だと 人が歩けるくらい厚く凍る 屋根には氷柱が出来るし 朝は辺り一面雪で真っ白になる」
フローラは驚きを隠せない
「湖の上を……歩けるのですか?」
「歩ける それに魚も氷に穴を開けて釣るくらいだ」
フローラは想像しようとする
しかし 生まれてから一度もそんな景色を見たことがない
頭の中には青い海しか浮かばなかった
レオンはコップをフローラの前へ置く
「一度やってみよう」
「はい」
フローラは両手を添え
静かに魔力を流し始めた
水面がわずかに揺れる
少しずつ 少しずつ冷えていく
コップの外側には薄く水滴が浮かび
やがて白い霜が付き始めた
だが それ以上変化は無い
水は冷たいまま氷にはならなかった
フローラは悔しそうに俯く
「駄目でした……」
レオンはコップへ手をかざした
青白い魔力が水を包む
パキッ
小さな音が響く
次の瞬間 コップの水は透き通った氷へ変わっていた
フローラは思わず息を呑む
「綺麗……」
光を受けた氷は宝石のように輝いている
フローラは思わず見惚れてしまった
レオンは氷を見つめながら考える
やはり 言葉だけでは伝わらない
実際に見た方が早い
レオンはフローラへ視線を向けた
「次の冬 ノルディアへ来ればいい」
フローラは驚いて顔を上げる
「ノルディアへ……ですか?」
「ああ 実際に凍った川や湖を見れば イメージも掴みやすい 魔法はイメージが大事だからな」
フローラはしばらくレオンを見つめ
やがて嬉しそうに微笑んだ
「はい ぜひ伺わせていただきます」
レオンも小さく頷く
「あぁ その時は案内する」
その約束は未来へ繋がる大切な約束になることを
まだ二人とも知らなかった




