第160話 聖女の本性
夕暮れになりフェルナード伯爵邸の廊下には夕日かま差し込んでいた
そこに 一人の少女が静かに歩いていた
肩まで流れるように伸びた艶やかな青髪
光を受けるたび まるで澄み切った湖面のように美しく輝く
透き通る蒼い瞳は穏やかで優しく
見る者の心を自然と惹きつけた
白を基調とした上品なワンピース
細く華奢な体つき
無駄のない所作
その一つ一つから伯爵令嬢として育てられた気品が溢れている
可憐さと美しさを兼ね備えたその姿は
まるで聖女を思わせるほど清らかだった
フェルナード伯爵家の一人娘
フローラ・フェルナード
今年十五歳
レオンと同い年だった
胸には一冊のノートを抱えている
父から言われた言葉を思い返していた
『レオン様の客室へ後ほど伺い 氷魔法についてご教授していただきなさい』
やがて レオンの客室へ到着する
コンコンと控えめに扉を叩いた
「レオン様 フローラです」
返事待つが返答は無い
幾ら待っても返事は返ってこなかった
フローラは恐る恐る扉へ手を掛ける
鍵は掛かっていなかった
「失礼します」
静かに扉を開ける
部屋の中には誰もいなかった
机の上には紙と本
荷物は置かれたまま
窓から吹き込む潮風がカーテンを静かに揺らしている
フローラは部屋へ入り
もう一度廊下を覗いた
右を見て左を見る
誰もいない
使用人の姿も無かった
それを確認した瞬間 穏やかな笑顔が消えた
「まだ戻ってねぇのか」
そう呟くとノートを机へ置く
そして勢いよくベッドへ飛び込んだ
「ふかぁー!」
大の字になって天井を見上げる
「疲れたぁ……」
ベッドの上で足をばたつかせる
「もう お嬢様とかやってられねーってーの!笑って お辞儀して 言葉遣いまで気を付けて……肩凝るんだっつーの!」
ごろりと寝返りを打つ
「しかも今日はレオンとか言う辺境伯との婚約を勧めろとか」
枕へ顔を埋める
「お父様は何考えてるんだっつーの!あんなやつの嫁なんか絶対嫌なんだけど」
そう呟きながら
昼間のレオンの姿を思い出す
ガチャ
静かに扉が開く音が響く
だが 枕へ顔を埋めているフローラの耳には届いていなかった
「まあ……顔はいいけど……」
枕へ顔を埋めたまま続ける
「でも男は強くなくちゃ意味ないっつーの!」
勢いよく上半身を起こした
「もう!マジでやってらんねー!!」
そう叫びながら振り向く
「…………」
扉の前には 部屋へ入ったばかりのレオンが立っていた
二人の視線が合う
時間が止まる
レオンは何も言わない
そしてレオンは静かに扉を閉めた
ガチャ
フローラは呆然と閉まった扉を見つめる
「……………………え?」
部屋には沈黙が流れた




