第147話 出発の日
朝靄がノルディアの大地を優しく包んでいた
東の空はゆっくりと白み始め
山々の向こうから朝日が少しずつ姿を現す
冷たく澄んだ朝の空気が頬を撫で
鳥達のさえずりが静かな領地へ響いていた
春を過ぎ夏が近付いたノルディア
木々は鮮やかな緑に染まり
朝露を纏った草花が朝日に照らされて輝いている
そんな穏やかな朝とは対照的にノルディア邸では早朝から慌ただしく人々が動いていた
使用人達は旅に必要な荷物を何度も確認し
騎士達は剣や鎧を点検していく
厩舎では走竜達が元気よく鳴き声を上げ
御者達は手綱や荷車の最終確認を行っていた
正門前には三台の竜車が整然と並ぶ
一台目はレオン達が乗る竜車
二台目と三台目にはボア肉とポーションとハイポーション
そして商談で使用する資料や旅に必要な荷物が積み込まれていた
今回同行するのはリックそして騎士十名 総勢十三名
フェルナード領まで約十日
長旅の準備はすでに整っていた
「積み荷の確認終了しました!」
騎士の声が正門前へ響く
リックは荷台を一つずつ見回り大きく頷いた
「問題ない」
「いつでも出発できます」
その時ノルディア邸の玄関扉が静かに開いた
黒髪を朝日に照らしたレオンが姿を現す
辺境伯家の紋章が入った外套を羽織り
腰には愛剣を提げていた
その後ろからクロエも姿を見せる
いつもの迷彩柄のマントを羽織り
大きな鞄を肩へ掛けていた
レオンが周囲を見渡す
「おはよう」
その一言で騎士達は一斉に姿勢を正した
「おはようございます!」
力強い声が朝の空へ響き渡る
ゼムがレオンの前まで歩み寄り深く一礼した
「ぼっちゃま 出発の準備は全て整っております 領内の仕事は私とエミルさんで責任を持って進めますので ご安心ください」
レオンは静かに頷く
「頼んだ」
「かしこまりました」
続いてエミルが歩み寄る
「レオン君 こちらをお持ちください」
差し出された小さな木箱の中には二本の秘薬が入っていた
レオンは木箱を受け取り大切に荷物へしまう
「ありがとう 残りは教国へ送くってくれ」
エミルは穏やかに微笑んだ
「はい セリオス様もきっと安心されると思います」
クロエは荷台を確認しながら振り返る
「レオン 商談資料も契約書も全部積み終わったよ 手土産も準備できてる」
レオンは笑みを浮かべる
「ありがとう 今回の商談はクロエが頼りだ」
クロエは少し照れながら笑った
「任せて 絶対成功させるから」
そこへリックが歩み寄る
「旦那 護衛の配置も終わりました 街道に問題がなければ十日ほどでフェルナード領へ到着できる見込みです」
レオンはゆっくりとノルディア邸を見渡した
忙しく働く使用人達
見送りに集まった騎士達
父グラニウスが命を懸けて守り続けた領地
そして自分がさらに豊かにすると誓った領地
レオンは静かに頷く
「それじゃあ行こう!フェルナード領へ」
「「「はっ!」」」
力強い返事が響く
走竜達が一斉に走り始め
三台の竜車は朝日に照らされながらノルディア邸を後にした
ボア肉の販路拡大
ポーションの販路開拓
そして 教国との交易をさらに発展させる新たな道を探すため
レオン達を乗せた竜車はフェルナード領へ向けて力強く走り始めた




