第137話 父を知る者
夜会は賑わいを見せていた
優雅な音楽が流れ
貴族達は酒を片手に談笑している
その中でレオンは一人の男性の前で足を止めた
艶のある金髪
燃えるような赤い瞳
四十代後半ほどの年齢
威厳と気品を兼ね備えた立ち姿は 王国屈指の名門公爵家当主に相応しい風格を漂わせていた
その整った顔立ちは一人の少女によく似ている
クラリス・ローゼンベルク
彼女の父
アルベルト・ローゼンベルク公爵だった
レオンは静かに一礼する
「ローゼンベルク公爵閣下 お久しぶりでございます」
アルベルトは穏やかに頷いた
「久しいな レオン殿 こうして会うのはアレク殿下の十歳の誕生祭以来だな」
「はい その節はご挨拶させていただきました」
アルベルトは小さく笑みを浮かべた
「あの頃はまだ十二歳だった 立派に挨拶していたことを覚えている」
レオンは少し安堵したように微笑む
「ありがとうございます」
少しだけ沈黙が流れる
アルベルトはグラスを眺めながら静かに口を開いた
「……グラニウスとは学園で共に学んだ」
レオンは目を見開く
「父上とですか」
「ああ 二年間だがよく剣を交えた」
アルベルトは懐かしそうに微笑む
「一度も勝てなかったがな」
レオンも思わず笑う
「父上らしいです」
「強かった……だが私が覚えているのは剣ではない」
アルベルトはゆっくりと言葉を続けた
「訓練が終わるといつも領地の話をしていた 雪が降ること 領民の暮らし 冬を越す備え 学生でありながら あれほど領民を想っていた者はグラニウスだけだった」
レオンは静かに父の姿を思い浮かべる
父らしいと思った
アルベルトはレオンを見る
「君も領地をよく見ているそうだな ボア肉事業の話は聞いている……立派だ」
レオンは首を横に振る
「まだ父上には遠く及びません」
アルベルトは穏やかに微笑んだ
「同じになる必要はない グラニウスは武で領地を守った 君は統治で領地を豊かにしている それでいい」
短い言葉だった
だがレオンの胸には深く響いた
「ありがとうございます」
アルベルトは小さく頷く
「焦るな 君は君の領地を作ればいい」
その時だった
「失礼いたします」
穏やかな声が二人へ掛けられる
振り向くと 一人の男性が立っていた
紺色を基調とした礼服
落ち着いた物腰
四十五歳ほどの年齢
柔らかな笑みを浮かべ一礼する
「初めまして フェルナード伯爵家当主 レイモンド・フェルナードと申します」
レオンも一礼した
「ノルディア辺境伯 レオン・ノルディアです」
レイモンドは穏やかに笑う
「以前より一度、レオン様とお話ししたいと思っておりました ボア肉事業について ぜひお話を伺いたく」
アルベルトは二人を見て静かに頷いた
「では私は失礼しよう また話そうレオン殿」
「はい 本日はありがとうございました」
アルベルトは軽く手を上げると その場を後にした
レオンは改めてレイモンドへ向き直る
ここからノルディアとフェルナード
二つの領地を結ぶ最初の商談が始まろうとしていた




