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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第5章 白銀の聖剣と秘薬
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間章 クロエの嫉妬 後編

夜会が開かれる二日前

宿へ荷物を預けると 二人はそのまま王都の街へ出た

王都は今日も多くの人で賑わっていた

行き交う人々

露店から聞こえる威勢の良い呼び込み

焼きたてのパンの香り

肉を焼く香ばしい匂い

以前と変わらない活気だった


「まずはどこ行く?」


クロエが楽しそうに尋ねる

レオンは周囲を見回した


「特に決めてないかなー」


「好きなところでいいぞ」


「じゃあ雑貨屋!」


クロエはレオンの腕を引きながら歩き出した

二人が入ったのは王都でも人気の雑貨店だった

店内には各地から集められた商品が所狭しと並んでいる

食器

革製品

装飾品

文房具

生活用品まで種類は豊富だった

レオンは棚を眺めながら歩く

一方クロエは商品を手に取ると 真っ先に値札を見る


「ふーん………なるほど」


別の商品を手に取る

素材を確かめ

細工を見て

再び値札へ目を向ける

そんなことを何度も繰り返していた

レオンは不思議そうに尋ねる


「欲しい物でもあるのか?」


クロエは首を横に振った


「違うよ……価格を見てるの」


「価格?」


「うん 王都ではこの品質でこの値段なんだってすごく勉強になる」


そう言って再び値札を見る


「この店は利益率もそんなに高くないね 回転率で勝負してるみたい 商品の並べ方も上手いなぁ つい手に取っちゃう」


レオンは思わず苦笑した


「本当に商人だな」


クロエは照れくさそうに笑う


「えへへ 癖なんだよ 見てるだけで色々勉強になるから」


しばらく店内を見て回ると 二人は雑貨屋を後にした

続いて足を運んだのは王都でも有名な武具屋だった

壁一面に剣や槍が並び 鎧や盾そして魔法具も数多く展示されている

クロエはここでも商品を手に取り 値札を見始めた


「やっぱり魔法具は高いね 魔導王国から仕入れてるからかな?………でも品質は流石だね」


レオンも店内を見て回る

その時 店の奥に展示されていた一本のブレスレットが目に留まる

白銀の細い鎖の中央には透き通るような青い魔石

思わず足を止めた


(青か)


自然とクロエの顔が浮かび青い瞳を思い出す

この魔石とよく似た色だった


「店主」


レオンは近くにいた店主へ声を掛ける


「これは?」


店主は笑顔で答えた


「魔法具でございます 魔力を流すことで防御結界を展開します 一度発動すると再び魔力を充填するまで使えませんが王都と領地を行き来される貴族の方々から人気の商品でございます」


レオンは再びブレスレットを見る

王都とノルディアを何度も往復するクロエ

商談で各地へ向かうことも少なくない

これなら クロエにちょうどいいか


「これを貰う」


店主は嬉しそうに頷いた


「ありがとうございます 金貨十四枚になります」


レオンは迷うことなく金貨を取り出した

店主は丁寧に箱へ収める


「大切な方への贈り物ですかな?」


レオンは少し笑う


「ああ いつも世話になってる人にな」




少し離れた場所で商品を見ていたクロエは 首を傾げた


(何買ったんだろ?)


クロエは少し気になった

だがレオンは何事もなかったように箱を懐へしまう


「終わったぞ」


「うん!」


クロエも深くは聞かず笑顔で頷いた

武具屋を出ると 王都の大通りへ戻る

露店には様々な食べ物が並んでいた

串焼き

焼き鳥

甘い焼き菓子

果物飴

香ばしい匂いが辺りに広がっている

クロエの目が輝いた


「レオン!あれ食べたい!」


「さっき昼飯食っただろ」


「それは別腹!」


「便利な言葉だな」


レオンは苦笑しながら銅貨を店主へ渡す

クロエは嬉しそうに串焼きを受け取った


「おいしい!」


「そりゃ良かった」


「レオンも!」


串を差し出され レオンは一口だけ食べる


「うまいな」


「でしょ!」


クロエは満足そうに笑った

食べ歩きを楽しみながら王都を歩いていると 一軒のパン屋が見えてきた

焼きたての香ばしい香りが通りまで漂っている

クロエは思わず足を止めた


「いい匂い」


レオンも店を見つめる


「寄っていくか」


二人はパン屋の扉を開けた

店内には焼きたてのパンが綺麗に並んでいる

その奥から元気な声が響いた


「いらっしゃいませ!」


茶色の髪を肩まで伸ばした少女が 笑顔で二人を迎えた


「おすすめはありますか?」


レオンが尋ねると 少女は明るく答える


「はい!」


「一番人気はこのパンです!」


そう言って差し出したのは 大きく切れ目の入ったパンだった

香ばしく焼き上げられたパンの間には焼きたての肉に新鮮な野菜 そこに特製のソースがたっぷり挟まれている


「これを二つお願いします」


「ありがとうございます!」


少女は手際よく紙へ包み 二人へ差し出した


「お待たせしました!」


クロエはパンを受け取ろうと手を伸ばす

その瞬間 微かに魔力の流れを感じた


「……」


クロエは一瞬だけ少女を見つめる

少女は何も気付かず笑顔のままだった


店を出て少し歩くと パン屋の目の前には大きな噴水広場が広がっていた

透き通った水が勢いよく噴き上がり

その周りでは子ども達が遊び

買い物帰りの人々が噴水の縁へ腰掛けて談笑している

レオンは噴水へ目を向けた


「ここで食べるか」


「うん!」


二人は噴水の縁へ腰を下ろした

温かなパンを頬張る

焼きたての肉汁が口いっぱいに広がった


「おいしい!」


クロエは嬉しそうに笑う

レオンも一口食べ 頷いた


「ああ 人気なのも分かる」


クロエはパンを食べながら 小さな声で口を開く


「レオン……さっきの子」


「ん?」


「あの子 多分魔力を持ってる」


レオンは驚く様子もなく小さく頷いた


「そうか」


その反応にクロエは首を傾げる


「驚かないの?」


「何となくな」


レオンは短く答える

その横でレオンは心の中だけで呟いた


(原作通りだな……やっぱりエリシアは魔力持ちか……)


ゲームの知識と現実が一致したことを静かに確認する

クロエはパンをもう一口食べる


「平民で魔力持ちなんて珍しいね」


「ああ」


レオンはそれ以上語らなかった

しばらく穏やかな時間が流れる

王都の喧騒

噴水の水音

時折吹き抜ける風

そのどれもが心地良かった

クロエは空を見上げながらぽつりと呟く


「僕は再来年から学園なんだよね」


「そうだな」


「楽しみではあるけど……一つだけ嫌なことがある」


「何だ?」


クロエは少しだけ寂しそうに笑った


「学園に入ったら 三か月に一回の大型連休までノルディアに帰れないでしょ?仕事だって上手く回るかな……今までみたいにレオンと一緒に商談も出来ないし」…………三か月って 長いよね」


レオンは静かにパンを食べ終え クロエを見る


「大丈夫だ クロエがいなくなると困るのは俺の方だからな」


「え?」


「それに 今まで一番世話になったのはクロエだから 本当にいつもありがとう」


そう言ってレオンは懐から小さな箱を取り出した


「これ 受け取ってくれ」


クロエは驚いたまま 箱を受け取る

ゆっくりと蓋を開けた

そこに収められていたのは"白銀のブレスレット"

中央には透き通るような青い魔石が輝いていた

クロエの鼓動が大きく跳ねる


「え……?これって…え……?」


クロエは青い魔石から目を離せなかった

王国には古くから伝わる風習がある

異性へ求婚する時 相手と同じ瞳の色の魔石を嵌め込んだ指輪を贈る

それは生涯を共に歩むという誓い"愛を伝える証"だった

青い魔石は自分と同じ瞳の色

胸の鼓動が少しずつ速くなる


(でも……普通は指輪………これはブレスレットだし)


レオンがそんな風習を知っているとは思えない

そう頭では理解している

それでも ほんの少しだけ期待してしまった

レオンはクロエの反応の意味など気付かず口を開く


「そのブレスレットは魔力を流すと防御結界が展開されるらしい 王都を行き来するのは危ないだろ?商談で一人になることも多いし 何かあってからじゃ遅いと思ってな」


クロエは思わず小さく笑った


(やっぱり そういうことだよね)


レオンらしい理由だった

恋愛の意味ではない

純粋に自分の身を案じて選んでくれた

それだけで十分嬉しかった

クロエはブレスレットを左手首へ付ける

青い魔石が陽の光を受けて静かに輝いた

レオンは満足そうに頷く


「似合ってるな」


クロエは嬉しそうに笑う


「ありがとう……大切にするね!壊れても絶対修理する」


「そこまでか」


「もちろん!!」


クロエは青い魔石を愛おしそうに撫でた

しばらく穏やかな時間が流れる

噴水の水音だけが静かに響いていた

やがてレオンは表情を少し引き締める


「そうだ 少し気になることがある それでクロエに頼みたい」


「何?」


「学園へ入ったら さっきの"パン屋の子"それとクラリス・ローゼンベルク公爵令嬢 二人の様子を見ていてほしい それで何か動きがあれば情報として流してくれ」


クロエは一瞬だけ目を丸くした


(また女の子!?)


そんな考えが頭をよぎる

だがレオンの表情は真剣だった

冗談でも恋愛でもない

領主として何かを警戒している顔だった

クロエもすぐに気持ちを切り替える


(さっきのパン屋の子は平民……しかも魔力持ち 学園へ入れば王権派は快く思わないかもしれない)


さらに考える


(クラリス様は中立穏健派のローゼンベルク公爵家 婚約者は王権派のアレク王子 だがらかなり難しい立場になる………確かに気にしておいた方がいい)


商人として考えればどちらも情報を集める価値は十分にあった

クロエは静かに頷く


「分かった 学園で見ておくね」


「ああ 頼む」


レオンも頷いた

パンを食べ終えたクロエは勢いよく立ち上がる


「よし!ご飯にいこ!」


レオンは思わず笑った


「まだ食うのかよ」


「パンはおやつ!夕ご飯は別!」


「よく食うな……」


「商人は体力勝負だからね!」


クロエは胸を張る

そしてレオンの方を見て満面の笑みを浮かべた


「僕 レンと初めて会った場所で食べたい!」


レオンは少し考える


「あの食堂か?」


「うん!あそこがいい!」


「あそこは庶民向けの店だぞ?もっと美味しい店じゃなくていいのか?」


クロエは迷うことなく首を横に振った


「うん!あそこがいいの!レンと初めて会って初めて一緒にご飯を食べた場所だから」


レオンは照れくさそうに頭を掻いた


「まぁ 今はレオンだけどな」


クロエはくすっと笑う


「僕の中では今でもレンだよ……ほら!早く行こ!」


クロエは一歩先を歩き始める

夕焼けに染まる王都

その後ろ姿を見つめながらレオンも静かに歩き出した

二人は肩を並べ思い出の食堂へ向かうのだった

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