第135話 託す想い
執務室には静かな空気が流れていた
机の上には先ほど完成した一本の瓶
透き通る 透明な液体だった
レオンは瓶を手に取る
「やっぱり 透明になったな」
エミルも静かに頷く
「色の術式を取り除いた結果でしょう」
レオンは瓶を光へかざした
以前セリオスへ託した秘薬とよく似た透明な液体
だが問題はそこではない
レオンは瓶を見つめたまま呟く
「問題はどうやって比較するかだな」
「比較……ですか?」
「ああ……賢者の秘薬に近付いたのか それとも全く別物なのか俺には判断できない」
執務室へ静寂が流れる
しばらく考え込んでいたエミルは静かに口を開いた
「レオン君 あのセリオス様のことです 以前お渡しした秘薬はまだ使われていない可能性があります」
レオンは少し驚いた
「そう思うか?」
「はい……セリオス様はご自身より他人を優先される方です もっと必要な方がいると考え 使わずに持っていらっしゃる気がします」
レオンは苦笑した
「……ありそうだ」
容易に想像できる
あの人なら自分の命より
誰かを助けることを選ぶ
エミルは透明な薬へ視線を向けた
「この薬をセリオス様の元へ送りましょう 以前の秘薬と比較できるのはセリオス様だけです」
レオンは静かに頷く
「それは丁度良かった 試作のポーションもそろそろ利益が出る頃なんだ 教国へ使用料を運ぶ時にこの薬も一緒に送ろう それと貿易の話もあるし………全部まとめてセリオスさんに任せよう」
エミルは一瞬きょとんとした
そしてくすりと笑う
「全部丸投げですね」
レオンも思わず笑った
「信頼してるってことだ 回復薬のことならセリオスさん以上に詳しい人はいないからな」
エミルは優しく微笑む
「きっとセリオス様も喜ばれると思います」
レオンは木箱へ視線を落とした
その中には透明な薬が静かに眠っている
父を救えなかった後悔
セリオスを救いたいという願い
そして ノルディアで始まった小さな研究
その全てがこの一つの瓶へ込められていた
試作のポーション事業もようやく利益が見え始める
まだ小さな一歩
それでも確かに前へ進んでいた
辺境の小さな研究は やがて教国へ届き
未来を大きく変えることになる
その始まりがこの日だった




