第134話 重ねる術式
色と風味の術式を取り除いた 新しい魔法陣
レオンは静かにそれを見つめていた
効力
魔力
必要な術式だけを残した魔法陣
だが 胸の奥に小さな違和感が残る
「いや……まだ何かある」
レオンは魔法陣を睨み続けた
エミルも隣で首を傾げる
「どうかされましたか?」
レオンは紙の上を指差した
「ここ!魔力を抽出する公式が二つあるよな」
エミルは頷く
この魔法陣では
右側で魔力草から魔力を抽出し
左側で龍脈の湧水へ魔力を流し込む
そのため同じ魔力抽出術式が二つ並ぶ構造になっていた
レオンは腕を組む
「それが無駄な気がするんだ」
「無駄……ですか?」
レオンは記憶を辿った
脳裏に浮かぶのは父を救うため研究した
"譲渡の魔法陣"
あの魔法陣は複数の術式が幾重にも重なり合い
見た目も非常に複雑だった
だが 魔力の流れそのものは無駄を極限まで省くよう設計されていた
一方 目の前の回復薬の魔法陣は違う
二つの魔力抽出術式がただ横へ並んでいるだけだった
レオンは中央を指差す
「だったら中央で二つを重ねて一つの魔力抽出術式にした方が効率が良くならないか?」
エミルは目を見開いた
その発想はなかった
「術式を……重ねるのですか?」
「ああ 重複する部分を一つに出来れば魔力の流れも短くなる損失も減ると思う」
エミルは魔法陣を見つめながら考え込む
やがて静かに頷いた
「理論上は可能です……ですが他の国でもそのような組み方は聞いたことがありません」
レオンは笑う
「じゃあ 試してみよう」
「はい」
二人は新しい紙を広げた
左右に描かれていた円をゆっくりと中央へ寄せていく
二つの円は重なり合い一つの共有部分が生まれる
レオンはその重なった部分へ魔力抽出術式を書き込んだ
一本一本慎重に線を繋ぎ
エミルが微調整を加え
レオンが全体の流れを整える
誰も作ったことのない新しい魔法陣
やがて最後の一本を書き終え
レオンは静かに息を吐いた
「完成だ」
机の上へ二株の魔力草と龍脈の湧水が入った瓶を置く
レオンは魔法陣へ魔力を流し込んだ
その瞬間 魔法陣が今までとは比べものにならないほど
眩い光を放つ
執務室全体が白い光に包まれた
エミルは思わず目を細める
やがて光はゆっくりと収まり静寂が戻った
机の上には一つの瓶だけが残されていた




