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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第5章 白銀の聖剣と秘薬
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第133話 賢者の秘薬

執務室の机の上には 新しく描き直された魔法陣が置かれていた

レオンは静かに頷く


「これでやってみよう」


「はい」


エミルも頷く

机には二株の魔力草

そして龍脈の湧水が入った瓶

レオンは魔法陣の中央へ瓶を置いた


「じゃあ 始める」


「はい」


レオンは魔力を流し込む

すると魔法陣が淡く光り始めた

以前よりも光は安定している

エミルは静かに見守っていた

やがて 魔力草が淡い光となって崩れゆっくりと瓶へ吸い込まれていく


数十秒後 光が消えた

レオンは瓶を持ち上げる

透き通る青い液体

以前よりもさらに澄み渡って見えた


「どうかな?」


エミルは瓶を受け取り

静かに目を閉じ魔力を流し込み中を確認する

そしてゆっくりと目を開いた


「これは……凄いです」


思わず声が漏れる

レオンは身を乗り出した


「本当か?」


「はい」


エミルは驚きを隠せない表情で頷いた


「効力も魔力もハイポーションを遥かに上回っています」


「こんな回復薬……私は見たことがありません」


少し息を呑み静かに呟く


「まるで……賢者の秘薬のようです」


レオンは目を見開いた

"賢者の秘薬"その言葉を聞いた瞬間

教国へ旅立つセリオスへ手渡した

あの秘薬を思い出した

透き通るような透明な液体


(そういえば……あの秘薬には色が無かった)


レオンは魔法陣へ視線を落とす

そこに描かれている"色"を抽出する術式


「エミル 一つ聞きたい」


「はい」


「セリオスさんに渡した秘薬があったんだけど……それは透明だった」


エミルは驚いたように目を見開く


「透明……ですか?」


「ああ……色は全く付いてなかった」


エミルも魔法陣へ視線を向ける


「それでしたら 色を抽出する術式は不要だった可能性があります」


「やっぱりそうか」


レオンは紙を引き寄せる

勢いよくペンを走らせた

一本また一本線を書き換え術式を消していく

その勢いにエミルは少し圧倒される


「レオン君 その秘薬というのは……」


レオンは手を止めず答えた


「クロエから譲ってもらった秘薬だ……魔力侵食症の進行を遅らせる薬で 教国へ戻る前にセリオスさんへ譲った」


エミルの手が止まる


「魔力侵食症……?」


思わずレオンを見る


「セリオス様がレオン君へ そのことを打ち明けられたのですか?」


「ああ 出発する前に教えてくれた」


エミルは言葉を失う

セリオスが病を隠していることは教国でも限られた者しか知らない

それをレオンへ打ち明けていた

それだけでも驚きだった

だが さらに驚いたのは その次の言葉だった


「だから俺が秘薬を譲ったんだ」


少し苦笑する


「正確にはクロエから譲ってもらった秘薬だけどな」


エミルは目を見開く


「賢者の秘薬を……譲られたのですか……?」


伝説としてしか知らない ロストアイテム

それを迷いなく託したという事実に胸が震えた

レオンは静かに答える


「いつ罹るか分からない俺より今罹っているセリオスさんの方が必要だからな」


少しだけ手を止める


「父上のようにはさせたくないんだ」


エミルは息を呑む


「北の戦神……グラニウス様は……もしかして……」


レオンは静かに頷いた


「ああ……父上は魔力侵食症で亡くなった」


執務室が静まり返る

教国でも名高い英雄 北の戦神グラニウス

その最期が魔力侵食症だったとは知らなかった

レオンは再びペンを走らせる


「俺はセリオスさんを救いたいんだ」


その言葉を聞いた瞬間

エミルの脳裏にあの日の訓練場が蘇る


『どれだけ努力しても』


『どれだけ苦労があっても』


『救いたい人を救えなかったら』


『意味が無いんです』


静かに木剣を見つめながら語っていたレオン


(そういう……ことだったのですね……あの日の言葉はグラニウス様を救えなかった後悔 そしてセリオス様を救いたいという決意だったのですね)


レオンは黙々とペンを走らせ続ける

その横顔には迷いが一切ない

エミルは胸へそっと手を当てた

今まで感じていた胸の高鳴りとは少し違う


(私は……この人の隣で支え続けたい……どんな未来でもこの人と一緒に抗いたい)


その想いはもう憧れではなかった

淡い恋心でもない

深く穏やかな愛へと変わっていた

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