間章 父親としての思い出
父グラニウスの記憶
レオンが五歳になった日だった
私は珍しく仕事を休んだ
討伐
視察
会議
陳情
全て後日に回した
家臣達は驚いていたが構わない、息子の5歳の誕生日くらいは父親でいたかった
妻はレオンを産むとそのまま力尽きて亡くなった
母親の愛情を受けず育ってきたレオンには普段から我慢をさせていた
そして私はレオンを肩車して領都を歩いた
「父上!」
「なんだ?」
「高い!」
「そうか……」
「人が小さい!」
「そうだな」
何がそんなに楽しいのかレオンはずっと笑っていた
通りを歩けば領民達が寄ってきて声を掛けてくる
「おめでとうございます若様」
「もう五歳ですか早いですね」
「ご立派になられましたな」
レオンはその度に胸を張る
少し二人で領内の店が並ぶ道を手を繋ぎ歩いた
私は息子を見ながら思いついたように尋ねた
「レオン」
「うん?」
「もし最強の剣があるとする」
「さいきょう?」
「ああ、さいきょうの剣だ、どんな魔物でも一撃で倒せる剣だ」
レオンの目が輝く
本当は少し期待していた
【民を守るために使う】や【父上を超える剣士になる】
そんな答えを
「レオン、お前ならどうする?」
レオンは腕を組み真剣に考え始める
あまりに悩むので苦笑した
「そんなに深く考えるな」
「ただの戯れ…遊びだ」
しばらくしてレオンは何かを閃いたように明るい顔をした
「父上!」
「なんだ?」
「四人で順番こ!」
予想外の答えだった、剣は1本なのに四人で交代
子供の考えることなかなか分からない
「四人で順番にか?」
「うん!」
「だってご飯食べるもん!それに寝るしトイレも行く!だから順番!そうすればずっと戦えるでしょ?」
私は思わず目を瞬かせた
自分にはない考えだった
私なら自分で握りもっと強くなることを考える
武人の極を目指したいと思うのが普通だと勝手に決めつけていた
だがこの子は違う
皆で使うことを考え皆で守ることを選んだ
思わず笑みがこぼれる
「はははっ……なるほどな、確かにその方が多くの魔物を倒せるな」
その時甘い匂いが漂ってきた
レオンが通りの菓子屋を指差した
「父上!あのお菓子食べたい!」
最近王都から帰ってきた料理屋の倅が継いだ店だった
王都では甘い菓子が人気だそうで故郷であるノルディアの皆に食べて貰いたいと作り始めたのだが
小麦や砂糖など使うのでどうしても価格があがってしまっている
「今日は誕生日だからな……好きなものを買ってやろう」
「ほんと!?」
「ああ、どれでも好きなのを選びなさい」
レオンはその場で飛び跳ね大喜びした
そして、突然何かに気付いたように声を上げた
「あっ!」
「どうした?」
「やっぱり五人!」
「五人?」
レオンは満面の笑みで言った
「今日の父上みたいにお休み作らないと!ずっと働いたら疲れちゃうもん!」
私は一瞬呆気に取られた、そして腹の底から笑った
「ははははははは!」
領民達が振り返るほど大声で
交代制だけでも面白かった、だがさらに一人増やして休みを作る
そんな発想は本当に思いつかなかった
私は戦うことばかり考えていた
強くなることばかり考えていた
だがこの子は違う
休むことを考えた
皆が長く働けることを考えた
皆が無理をしないことを考えた
その時私は確信したこの子はきっと私より良い領主になると
一人で守る英雄ではなく皆で守れる仕組みを作る領主に……
嬉しそうにお菓子を抱えて笑うレオンを見ながら私はそんな未来を思い描いていた




