表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第1章覚醒と別れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/313

間章 民の為に生きたグラニウス

執務室の扉が勢いよく開かれた。


「辺境伯様!」


騎士が飛び込んでくる。

グラニウスは書類から顔を上げた。

慌てているのか、ノックや作法まで飛ばして入ってきた新人兵へ目を向ける。


「どうした?」


「レ、レッドボアの討伐隊が、グレイムベアと遭遇しました!」


部屋の空気が変わる。

グレイムベアは、山脈周辺に縄張りを持つ大型魔獣だ。

レッドボアとは格が違う。


「被害は?」


「現在、目立った被害はありません! 撤退中です!」


「なら問題あるまい」


そう答えた瞬間だった。

騎士の顔色が、更に悪くなる。


「進路上に、孤児院の子供達がいます!」


一瞬の沈黙が流れ、グラニウスの目が細くなる。

"薬草採取"あの仕事は、自分が許可した。

少しでも孤児院の足しになるようにと思い、孤児院の子供達に、働いて得る金の大切さを知ってほしく認めた。

ゼムはレオンと共に、王都へ向かっており、不在だ。

グラニウスは立ち上がった。


「私の武具を用意しろ!」


執事やメイド達が凍り付く。


「辺境伯様!」


慌てて男性の執事が止めに入る。


「なりません! お身体が……」


メイド長もグラニウスの前に立ち、その行動を制止しようとした。


《魔力侵食症》


医師からも、魔力を使うことを止められている。

グラニウス自身も、それは理解していた。


「ノルディアの子供達がいる……これは命令だ!」


それだけだった。

反論を許さない、辺境伯の命令。

従者達は頭を下げる。


「はっ!」


グラニウスは剣を手に取った。

身体はまだ動く。

まだ自分は戦える。

ならば行く、それだけだ。







ノルディアの街から少し北の平原地帯で子供達は泣いていた。

目の前に迫るグレイムベアの巨大な牙と爪に怯え、誰一人として動けなかった。

その時、空気を切り裂く音が鳴り響く。

鋭い氷柱が、グレイムベア目掛けて飛んできた。

氷柱が、グレイムベアの顔面へ突き刺さる。

魔獣が咆哮した。

そして、グレイムベアの標的が、子供達から魔法を放った人物、グラニウスへと変わった。

グレイムベアの目には、もう子供達は映っていない。


「今のうちに、子供達を守れ」


グラニウスの低い声が平原地帯に響き渡る。

次の瞬間、グレイムベアが突進してきた。


「盾隊! 前へ!」


騎士団長 ガレスが叫ぶ。

重装兵達が飛び出し、大盾を並べる。


「受けろぉぉぉ!」


大盾とグレイムベアが衝突した。

衝撃で数人が吹き飛ぶ。

それでも、騎士達は耐える。

押し返されながらも、必死に時間を稼ぐ。

その間、グラニウスは動かない。

剣を地面へ突き立て、魔力を溜める。

冷気が広がり始め、近くにいる騎士達の息が白くなっていく。

グレイムベアを抑えている騎士達の額に、汗が浮かぶ。

まだか、まだかと誰もが、そう思った。

グラニウスが目を開き、剣を引き抜いた。


「離れろ」


ガレスが叫ぶ。


「総員、後退!」


盾兵達が飛び退き、グレイムベアが自由になる。

その瞬間、空が暗くなった。

空には巨大な氷塊。

城壁ほどもある氷の塊が、上空に浮かんでいた。

グラニウスが剣を振り下ろす。


「落ちろ」


その短い一言で、氷塊が急降下した。

ドゴォォンッ! と轟音が鳴り響く。

奥の森が揺れ、大地が沈む。

衝撃波が吹き荒れ、冷気と砂埃で視界が遮られた。

しばらくして砂埃が収まると、徐々に周囲が見え始めた。

そこには、巨大な氷の下敷きとなり、絶命したグレイムベアの姿があった。

子供達は助かった。

騎士達も安堵する。



だが、まだ終わっていなかった。

上空から影が落ち、一人の騎士が空を見上げて叫んだ。


「ワ……ワイバーン!」


空を埋める五体のワイバーン。

レッドボア狩りの帰りに回収するはずだった死体が、仇となったのか。

グレイムベアと遭遇したため回収できず、撤退したことが裏目に出た。

ワイバーンは、一体でも災害級の魔獣だ。

それが五体。

翼を広げ、空を旋回していた。

翼を広げれば邸ほどにもなる巨大な竜が咆哮を上げ、空気が震えた。

森の木々が揺れ、遠くへ避難していた子供達が、再び怯えた声を上げる。

グラニウスは剣を握り、静かに目を閉じた。

体内に残された魔力をかき集める。

全て、一滴残らず。

魔力侵食症を患う身体への負担を考えることをやめた。

そして、溜めた魔力を更に剣へ流し込む。

大地が軋む。

空気が凍り始め、草木が白く染まる。

避難していた騎士達が息を呑んだ。


「まさか……」


ガレスの顔が青ざめる。

止めなければならない。

だが、もう遅い。

グラニウスの周囲には、膨大な魔力が渦巻いていた。

剣から氷が伸びる。

更に伸びる。

更に。

更に。

やがて、それは城壁すら見下ろすほどの巨大な氷剣となった。

まるで、神話に登場する巨人の武器。

大地へ突き立てるだけで、山すら割れそうなほどの質量。

騎士達は言葉を失う。

誰も見たことがない。

全盛期のグラニウスですら、滅多に使わなかった奥義。

そして、今の身体で使えば何が起こるのかも、皆分かっていた。

グラニウスは空を見上げる。

ワイバーン達が、グラニウス目掛けて襲いかかる。

あと数秒。

その時、グラニウスは小さく呟いた。


「砕け散れ」


次の瞬間、巨大な氷剣が振り下ろされた。

轟音が鳴り響き、世界が白く染まる。

剣圧と共に放たれた絶対零度の斬撃が、前方へ走る。

地面が凍り。

森が凍り。

空気そのものが凍る。

巨大な氷河が世界を飲み込むように、広がっていく。

逃げる暇など、もうない。

先頭のワイバーンが凍結する。

続いて二体。

三体。

四体。

五体。

空中で完全に凍り付いた魔獣達は、そのまま砕け散った。

氷像となった巨体が、粉雪のように崩れていく。

一瞬だった。

本当に、一瞬の出来事だった。

五体のワイバーンは、跡形もなく消滅した。

静寂が流れ、風の音だけが響く。

誰も言葉を発せない。

ただ、目の前の光景を見つめていた。

前方数百メートル。

奥にある、森そのものが、巨大な氷原へと変わっていた。

それはまるで、《冬の戦いの神》が剣を振るった跡だった。

そして、カラン――と金属音が響く。

グラニウスの剣が手から落ち、その巨体がゆっくりと傾いた。

ガレスが目を見開く。


「閣下!」


思わず大剣を投げ捨て駆け出す。

だが、間に合わない。

グラニウスはその場に膝をつき、前へ倒れた。

雪のような氷の欠片が舞う。

ガレスはグラニウスを仰向けにし、その身体を抱き起こした。

呼吸はある、だが弱い。

あまりにも弱い。

魔力は完全に枯渇していた。

ガレスは震える手で、主君を抱き起こす。

グラニウスは薄く目を開いた。

青い空を見上げる。

そして、小さく呟いた。


「……無事か?」


その言葉に、ガレスは唇を噛み締める。

自分の身体ではない。

戦果でもない。

最後まで気にかけていたのは、子供達や騎士達、そして領民のことだった。


「全員、無事です……!」


ガレスの声が震える。


「子供達も……騎士達も……全員無事です!」


グラニウスは小さく頷いた。

それを聞いて安心したように、ほんの少しだけ口元を緩める。

そして、再び目を閉じた。

その姿を見ながら、ガレスは理解した。

その代償が、あまりにも大きかったことを。

本当は2話で死ぬはずでしたがあれよあれよと書いてたらこんなことに……ごめんなさい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ