第130話 贈り物
ノルディア邸へ戻る頃には月が高く昇っていた
二人は正門の前で足を止める
静かな夜 聞こえるのは虫の音だけだった
レオンはふと思い出したように口を開く
「そうだ」
懐へ手を入れる
「これ 良かったら受け取ってください」
差し出したのは
昼間 雑貨屋で買ったリボンだった
黒を基調としたリボン
そこへエメラルドグリーンの糸で繊細な刺繍が施されている
「これは……」
エミルは目を見開いた
「雑貨屋で見つけて エミルさんに似合いそうだと思ったので…… 魔法陣を直してくださったお礼です……本当にありがとうございました」
エミルは言葉を失った
(覚えて……いらしたのですね)
魔法陣を修正したのはほんのわずかな違いだった
修正前と修正後を知っている者でなければ
気付かれないと思っていた
それでもレオンは見抜いていた
「気付いていたんですか?」
「ええ」
レオンは苦笑する
「私以外であの魔法陣を直せる人はいませんから……それにリックから僕を探していたと聞きましたし憶測でしたがエミルさんかなと思いまして」
エミルは少し恥ずかしそうに俯く
「勝手に触ってしまい 申し訳ありませんでした」
「いえ」
レオンは首を横へ振る
「むしろ助かりました あの二か所だけどうしても分からなかったんです エミルさんのお陰で起動まで出来ました」
エミルは安堵したように微笑んだ
「お役に立てたのでしたら………良かったです」
レオンは表情を引き締める
「ですが……まだ問題が残っているんです」
「問題ですか?」
「はい 修正した魔法陣で作った薬は以前より魔力が薄くなってしまいました」
そして二本の試作品の便を取り出しエミルに見せた
「最初に別々の魔法陣で作った時の方が魔力を多く含んでいたんです
そっとレオンは試作品を懐に仕舞い話を続けた
「なのでもう少し微調整が必要なんです」
レオンはエミルを見る
「もし良ければ また研究を手伝って頂けませんか?」
エミルの表情がぱっと明るくなる
「もちろんです 私でお力になれるのでしたら 喜んで」
「ありがとうございます」
レオンは安堵したように笑った
少しの沈黙が流れる
エミルはリボンを胸へ抱き寄せ
大切そうに見つめる
「本当に ありがとうございます……大切にいたします」
レオンは照れくさそうに笑う
「使ってもらえたら嬉しいです」
エミルも自然と笑みを浮かべた
そして少しだけ勇気を出すように口を開く
「レオン様一つお願いがございます」
「何ですか?」
「………普段 皆さんとお話しされているように私にも話して頂けないでしょうか?」
レオンは少し驚いた
「敬語じゃなくていいってことですか?」
「はい その方が嬉しいです」
レオンは少し考え苦笑する
「じゃあ……レオン様は少しやめてもらいたいですね "様"って呼ばれるのあまり好きじゃないんです」
エミルは静かに頷いた
「分かりました」
少し考え穏やかに微笑む
「……でしたら……"レオン君"と呼ばせてもらいます」
レオンも笑う
「うん その方が助かるよ」
エミルは嬉しそうに頷いた
「それでは 今日はありがとうございました」
レオンは思わず笑ってしまう
「そっちは敬語のままかよ!?」
エミルはくすりと笑った
「私は"様"を辞めてとしか言われてませんので」
その笑顔は
-月明かりに照らされ
まるで女神のように美しかった
レオンは思わず見惚れる
夜風が優しく二人の間を吹き抜ける
「それじゃ また明日」
「はい……また明日ですね」
エミルは一礼し
嬉しそうにリボンを胸へ抱きながら
客間へ戻っていった
レオンはその後ろ姿を見送り
小さく笑う
「……本当に不思議な人だな」
そう呟き 自室へ向かって歩き出した




