第129話 北の外れの宿
木漏れ日亭を後にした二人は夜の宿場町を並んで歩いていた
月明かりが石畳を優しく照らしている 静かな夜道
しばらく歩くとエミルがゆっくりと口を開いた
「レオン様…最後に……一か所行きたい場所があるのですが」
レオンは少し驚く
「行きたい場所ですか?」
「はい 案内して頂けないでしょうか」
「もちろんです それでどちらですか?」
エミルは宿場町の北側を指差した
「あちらです」
レオンはその先へ視線を向ける
そして建物を見た瞬間思わず足を止めた
(あそこは……)
驚いたようにエミルの顔を見る
「エミルさん………あそこがどのような場所かご存じですか?」
エミルは不思議そうに首を傾げた
「はい………自宅みたいにのんびりお酒を嗜みながらお話をする場所だと伺いました」
レオンは静かに目を閉じる
その瞬間木漏れ日亭での会話が脳裏を過った
『ボア肉料理が名物なんです』
『リックさんも仰っていました』
(まさか……今日一日の行き先……全部……)
思わず額へ手を当てる
「なるほど……そういうことでしたか……」
エミルは不思議そうに首を傾げる
「何かございましたか?」
レオンは苦笑した
「いえ 少し分かったことがありまして」
一度宿へ視線を向け小さくため息を吐く
「アイツは視察という名目でエミルさんをデートへ誘うつもりだったんですね」
エミルは目を丸くした
「デート……ですか?」
「ええ」
レオンは頷く
「ちなみにあの宿は恋人や夫婦が泊まる宿なんです」
エミルは数秒固まる
「そう……だったのですか」
ようやく全てを理解した
「だから……返事された時に あれほど慌てておられたのですね」
「そういうことです」
レオンは苦笑しながら空を見上げた
「アイツは明日天罰が降りますね」
そう言って微笑む
その笑顔は穏やかだった
だが どこか黒かった
エミルは思わず吹き出した
「ふふっレオン様でもそのようなお顔をされるのですね」
「たまにはありますよ」
二人は顔を見合わせ小さく笑った
夜風が静かに吹き抜ける
宿の窓から漏れる明かりを背に二人は再びノルディア邸へ向かって歩き始めた




