第124話 小さな修正
エミルは魔法陣を静かに見つめていた
「…………」
紙には何度も書き直した跡が残っている
試行錯誤を繰り返したことが一目で分かった
「よくここまで……」
小さく呟く
術式そのものは良く出来ている
だからこそあと少しだった
エミルはもう一度
魔法陣全体へ視線を走らせる
魔力の流れ
術式の繋がり
一つ一つ確認する
するとある一点で手が止まった
「ここですね」
ほんの僅かな歪み
普通なら気付かない
だが 幼い頃に学んだ魔法陣の知識が
その違和感を見逃さなかった
さらにもう一か所
術式同士の繋がりにも違和感がある
「こちらも……」
エミルは小さく呟いた
「ですが……」
手が止まる
勝手に書き換えても良いのだろうか
大切な研究かもしれない
「いえ………流石に勝手に触るのは失礼ですね」
一度は紙を机へ戻した
だが扉へ向かって数歩歩いたところで
足が止まる
「…………」
振り返りもう一度魔法陣を見る
「このままでは また同じ所で悩まれるかもしれません」
エミルは少し迷う
だがレオンの姿が頭に浮かんだ
領民へ向ける優しい笑顔
真剣に政務へ向かう姿
誰よりも努力を続ける姿
何度も書き直された魔法陣
その努力を知っているからこそ
少しでも力になりたかった
「失礼いたします」
小さく頭を下げる
机の上に置かれていた羽ペンを手に取った
そして迷いなく二か所だけ書き直す
一か所目は魔力の流れを整えるための修正
二か所目は術式同士の繋がりを僅かに調整した
「これで……」
術式全体を見直す
魔力の流れが綺麗に繋がる
エミルは小さく微笑んだ
「これなら完成すると思います」
羽ペンを元の場所へ戻し
魔法陣も最初と同じ位置へ丁寧に置く
誰が見ても書き換えたことに気付かないほど自然だった
「さて……レオン様はどちらでしょうか?」
先ほど 入れ違いになってしまった
今度こそ街へお誘いしなければならない
エミルは身なりを整え直すと静かに執務室を後にした




