第122話 恋愛相談
ノルディア騎士団訓練場
木剣がぶつかり合う音が響いていた
「そこまで!」
ガレスの号令で訓練は一旦休憩となる
騎士達が水を飲み始めたその時
訓練場の入口へ一人の女性が姿を現した
「エミルさん?」
リックが目を丸くする
エミルは真っ直ぐリックの元へ歩いて来た
「リックさん」
「はい!」
「少しお時間よろしいでしょうか?」
「もちろんです!」
突然のことにリックは嬉しそうに返事をした
ガレスとエルンは顔を見合わせる
二人は訓練場の端へ移動した
少しだけ沈黙が流れる
先に口を開いたのはエミルだった
「以前…………私へ付き合ってほしいと仰いましたよね?」
リックの顔が一瞬で赤くなる
「は、はい……あの時は突然すみませんでした」
エミルは首を横へ振る
「いえ……その件で少しお聞きしたいことがあります
もし私が良い返事をしていたらリックさんはどうするおつもりだったのですか?」
突然の質問にリックは固まる
「えっと……街を回ったり 食事をしたりですかね」
エミルは真剣な表情で頷く
「なるほど」
そして続けて尋ねた
「ちなみにどちらへ連れて行く予定でしたか?場所も決めていたのですか?」
リックは胸を張る
「もちろんです!誘うならちゃんと下調べくらいしますよ!まずは市場ですね 食べ歩きも出来ますし その後は街の雑貨屋です!女性ってそういう店好きでしょ?」
エミルは忘れないように小さく頷く
「なるほど」
リックは指を折りながら続けた
「夕食は宿場町にある『木漏れ日亭』です ボア肉料理が美味くて有名なんですよ 雰囲気も良くて恋人同士もよく来ます」
「木漏れ日亭ですね……覚えておきます」
エミルは真剣な表情で復唱した
リックは少し照れ臭そうに頭を掻く
「それから……丘の花なんか見たりして……」
エミルは小さく頷く
「丘の花ですね……覚えておきます」
ノルディアの宿場町には小さな公園がある
そこから見上げる丘の頂にはグラニウス・ノルディアの墓がある
領民達が感謝を込め
毎日のように花を供え続けた結果
丘一面が花で埋め尽くされ
まるで花畑のような景色となっていた
その穏やかな景色は若者達にも人気があり
公園から丘を眺めながら語り合うのはノルディアでは定番のデートコースとなっている
もちろんエミルはそんなことを知らない
リックは少し照れながら続けた
「あと……宿場町の北の外れにある宿なんか行けたら……」
そこまで言って口を閉じた
エミルは首を傾げる
「その宿には何かあるのですか?」
「え……」
リックは一瞬固まる
「えっと……そ、そうだ!お酒なんか飲みながら 家みたいにゆっくり話す所ですよ!あ、あはは……」
苦しい説明だった
だが エミルは納得したように頷く
「なるほど……そういう場所なのですね…勉強になります」
リックは乾いた笑みを浮かべた
「そ、そういう所です……」
エミルは深く一礼する
「ありがとうございました 大変参考になりました」
リックはまだ少し期待を抱いていた
「あ、あの!この後って何か予定ありますか?」
エミルは少し考え静かに答えた
「レオン様の方へ少しお話がありますので」
「そうですか……」
リックは少しだけ肩を落とす
「では失礼いたします」
エミルは一礼すると訓練場を後にした
その背中を見送りながら リックは頭を掻いた
「暇なら……誘いたかったな……」
その呟きは誰にも届くことはなかった




