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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第5章 白銀の聖剣と秘薬
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第119話 魔力の籠った水

エミルがノルディアへ赴任してから一ヵ月が過ぎた

ノルディア邸の執務室では レオンが机の上へ二本の瓶を並べていた

一つはポーション

もう一つはハイポーション

どちらも青色の液体だ

見た目だけでは違いは分からない

レオンは二本を見比べながら小さく呟く


「違うのは一つだけだ ポーションは普通の水 ハイポーションは丘の湧水を使っている」


レオンはハイポーションを手に取った

以前セリオスが話していた


『教国では見習い神官や見習い聖騎士へ定期的に飲ませています』


『魔力草には魔力回路への負担を軽減する効果があります』


魔力草には魔力回路への負担を軽減する効果がある

だから教国では幼い頃から定期的に飲み続け 魔力侵食症を予防している


「多少の魔力使用なら魔力草で予防出来る そこまでは分かっている」


レオンはハイポーションを机へ戻した

"丘の湧水"

傷口へ掛ければ治りが早い

ボア肉も腐りにくい

花も枯れにくい

普通の水には無い効能だった


「つまり魔力の籠った水にも効能があるのか?…それならこの効能を抽出できないか?」


レオンは手元のメモへ視線を落とした


「魔力草の抽出液と合わせれば 魔力侵食症にも効果のある薬が作れるかもしれない」


教国の回復薬は魔力草の効能を抽出し

水と融合して作られている

ならば 丘の湧水も同じように抽出出来るはずだ

レオンは教国の抽出魔法陣を書き写し

丘の湧水用へ術式を書き換え始めた




三日後


「出来た」


完成した魔法陣へ魔力を流す

淡い光が走り

器へ透明な液体が溜まっていく


「成功か……」


だがレオンは首を振った


「いや まだだな」


偶然成功しただけかもしれない

同じ魔法陣をさらに二度起動する

レオンは机へ四本の小瓶を並べた

一本目は何もして無い丘の湧水

残る三本は

一回目

二回目

三回目に抽出した液体だった

色や透明度それに量はどれも違いは無い

レオンは小さく頷く


「抽出量も安定している」


次は本当に効能まで抽出出来ているか確かめる

最初に思い浮かんだのは花だった

だが すぐに首を振る


「駄目だ 今の湧水でも半年近く枯れない 比較するには時間が掛かり過ぎる」


しばらく考え込み

一つの答えへ辿り着いた


「……ボア肉か」


ボア肉は足が早い

丘の湧水へ浸けた物と三回抽出した液体へ浸けた物を比べればいい


「これなら一週間もあれば結果が出るだろう」



一週間後 レオンは机へ並べられた四つの容器を見つめた

一つ目は丘の湧水へ浸けたボア肉

残る三つは

一回目

二回目

三回目

抽出した液体へ浸けたボア肉だった

レオンは一つずつ確認する

丘の湧水へ浸けたボア肉は傷んでいない

一回目も変化は無い

二回目も同じ

三回目も傷んだ様子は見られなかった

レオンは静かに頷く


「効能も安定して抽出出来ている」


次の段階へ進む

魔力草の抽出魔法陣

丘の湧水の抽出魔法陣

教国の融合魔法陣

三つを順番に起動させた

完成したポーションは綺麗な青色だった


「成功か……?」


だが レオンは再び魔法陣を起動する

再現性の確認だった

二本目 少し色が薄い


「……?」


さらにもう一度起動する

三本目 今度は濃い青色だった

もう一度起動する

四本目 量まで違っていた

レオンは四本のポーションを並べる

一本目は標準と思われる青色

二本目は薄い青色

三本目は濃い青色

四本目は量まで違う

レオンは腕を組んだ


「何故だ?」


魔法陣は同じ

材料も同じ

手順も同じ

それなのに

毎回結果だけが違う



それから二週間レオンは毎日実験を繰り返した

抽出量を調整する

融合の順番を変える

魔力の流し方も変えてみる

だが結果は変わらない

そしてようやく原因へ辿り着く


「割合か」


魔力草の抽出量

丘の湧水の抽出量

その僅かな違いで融合後の品質が変わってしまう


「これじゃ薬にならない」


患者へ渡す薬は毎回同じ品質でなければ意味がない

レオンは机へ並べた三枚の魔法陣を見つめた


「別々だから駄目なんだ」


三枚の紙を重ねる


「抽出した後に融合するんじゃない 最初から一枚の魔法陣で抽出と融合を同時に行う必要があるのか」


新しい白紙を机へ置く

ここから本当の研究が始まった

一本線を書き換えるたび全体の術式が崩れる

失敗

修正

失敗

修正

その繰り返しだった


ある日の昼クロエが執務室へ入ってきた


「まだやってるの?」


「ああ」


「少し手伝おうか?」


「出来るなら頼む」


クロエは資料へ目を通すだが数分後


「無理 何これ 記号ばっかりで全然分かんない」


レオンは苦笑した


「諦めるの早いな」


「だって無理だもん 僕は商人だよ? 魔法陣なんて専門外」


そう言うとクロエは椅子へ座り お茶を飲み始めた

それから毎日のようにクロエは横でレオンの研究を眺めるだけになった

さらに一ヵ月後


「……これだ」


レオンは完成した一枚の魔法陣を見つめる

理論上は完成していた


「頼む」


静かに魔力を流す

魔法陣が淡く光る

しかし次の瞬間 光は消えた

何も起きない


「……駄目か」


理論は間違っていない そう思う

だがどこか決定的に足りない

その答えだけが見つからない

考え込んでいるとクロエが立ち上がった


「レオン もうお昼だよ」


レオンは窓の外を見る

太陽は高く昇っていた


「もうそんな時間か」


クロエは笑顔で振り返る


「ご飯食べに行こー」


レオンは苦笑して立ち上がる


「そうだな 続きは午後にしよう」


完成しなかった魔法陣を机の上へ置いたまま二人は執務室を後にした

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