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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第5章 白銀の聖剣と秘薬
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第118話 命の重さ


朝日が少しずつ高く昇る

訓練場にはレオンとエミル 二人だけが残っていた

エミルは少し俯き何度か言葉を飲み込む

そしてゆっくりと口を開いた


「私は…………奴隷でした」


レオンは目を見開く

だが何も言わない

続きを待った

エミルは小さく息を吸う


「私は魔導王国で産まれました…魔導王国では属性が無い人は価値が無いとされています」


少し沈黙が落ちる

レオンはエミルの言葉を待った


「そして……私は属性がありませんでした……そのため 幼い頃に奴隷商へ売られました」


少しだけ微笑む


「そんな私を救ってくださったのがセリオス様です

あの方は 奴隷だった私にも一人の人間として接してくださいました……だから」


言葉が詰まるエミルは目を閉じ

呼吸を整え更に続けた


「私の この軽い命でセリオス様をお守り出来るのならそれだけで十分だと思っていました……それが私に出来る唯一の恩返しだと……」


少しの沈黙が流れる

やがてエミルは視線を落とした


「私はセリオス様の勧めもあり 聖騎士団へ入ることが出来ました……ですが聖騎士団へ入っても元奴隷という過去は消えませんでした 」


エミルは少し俯き


「表では何も言われません ですが陰では色々と言われていました……」


そこまで口にすると自分の胸元へ視線を落とした

レオンは何も聞かない

その仕草だけで 何を言われていたのか理解していた

エミルは自嘲するように笑う


「身体を売って 副団長まで上り詰めたのだろうと……そのような噂まで流されました もちろん事実ではありません ですが信じてくださる方はほとんどいませんでした」


少しだけ苦笑する


「ですから 今回ノルディアへの派遣が決まった時も左遷されたのだと思っていました」


「辺境へ送られたのも【元奴隷の売女】だからだと……ですがセリオス様自ら私を推薦されたと聞いた時 私は逆に疑ってしまったのです 何か裏があるのではないかと……何故……私なのだろうと……ですが 先ほどレオン様のお話を聞いてようやく分かりました」


そして顔あげその蒼い瞳はレオンに向けた


「セリオス様は身分ではなく人を見ておられるレオン様を見て欲しかったのだと だから私を推薦してくださったのだと……」


レオンは静かに口を開く


「エミルさん 先程の剣技は一朝一夕で身に付くようなものではありません 長い年月努力を積み重ねてきたからこその剣です……それに聖騎士副団長という立場はそう簡単にはなれないと私は思います」


レオンはエミルの持っている木剣に目を落とす

そこには無数の傷 それにシミが着いていた 柄の部分には血で黒く汚れていた


「副団長という役職は実力も人格も信頼も無ければ任されないでしょう」


エミルは目を見開いた

そんな言葉を掛けられるとは思ってもいなかった

レオンは真っ直ぐエミルを見る


「それに奴隷も人は人です人間の命の重さに身分は関係ないでしょ?」


そう言いレオンは懐から小さな帳簿を出しエミルに渡した

エミルは帳簿を開いた 中にはぎっしりと名前が並んでいた そして最初の20ページの殆どの名前に赤い線が引かれていた


「その赤い斜線はレッドボアの討伐で亡くなった人達です」


レオンは上を向き空を眺めた

エミルが驚く 前に見た騎士団は仲が良く笑いが良く起きていたからだ

それなのにこの人数の死者が居る到底ありえない光景だった


「領主になって初めての改革で死者は無くなりましたが……ですが領地を守って亡くなった人達には友人や恋人そして家族が居ました……見舞い金として一年間の給与を家族に渡します……ですがお金じゃないんです……今でもお金を使わず置いている方も中には居ます」


空を眺めていたレオンは視線を下ろしエミルの蒼い瞳を見た

そして口を開いた


「エミルさんの命もセリオスさんの命も 同じように大切な命です だから自分の命を 軽いなんて言わないでください」


エミルは何も言えなかった

胸の奥が熱くなる

それでも涙だけは必死に堪えた


「ありがとうございます」


帳簿をレオンに返しその一言だけを口にした

そしてエミルは深く頭を下げる

レオンは照れたように笑った


「そろそろ朝食ですね……行きましょう」


「はい」


二人は並んで歩き出す

邸の入口でそれぞれの部屋へ向かうため別れた


「では……失礼します また後で」


レオンは軽く手を振り歩いて行く

その姿が見えなくなった頃

エミルは立ち止まった

張り詰めていたものが ふっと ほどける

一筋の涙が静かに頬を伝った


「セリオス様……」


小さく呟く


「貴方がレオン様を信頼された理由がようやく分かりました」


涙を拭い小さく微笑む


「少しだけ 惹かれてしまいました」


朝風が静かに吹き抜け

その言葉は誰にも届くことなく空へ溶けていった

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