第115話 辺境の噂
王都の王城では貴族達が集う夜会が開かれていた
煌びやかなシャンデリアが会場を照らし
王国中の貴族達が酒を片手に談笑している
その話題は自然と一人の辺境伯へ移っていた
「聞きましたか?最近のノルディア領の話を」
一人の伯爵が口を開く
「ああ あのボア肉事業でしょう」
「それだけではありません」
別の貴族が首を横へ振る
「今度は教国と共同でポーション事業を始めるそうです」
「教国がノルディアと共同事業だと?」
「しかも監査役まで派遣されたとか」
「聞けば運送商会とも契約を結び教国との交易まで始めるそうです」
「辺境とは思えませんな」
「父親のグラニウスは武で名を上げ 息子は商で名を上げる……実に面白い」
その時だった一人の子爵が少し離れた場所で静かに話を聞いていた男へ視線を向ける
「ローゼンベルク公爵はノルディア家をご存じなのですか」
会場の視線が集まる
ローゼンベルク公爵は
静かにワイングラスを置いた
「知っている」
短い返答だった
「現辺境伯ではない その父親のグラニウス・ノルディアだ」
その名に周囲の貴族達も頷く
王国最強 その異名を知らぬ者はいない
公爵は静かに続けた
「学園で同じだった……私は魔法で名を知られ 彼は剣で名を知られていた……もっとも彼奴は剣だけではない 魔法も学も優秀だった……卒業まで学園に残っていれば全て首席だっただろう」
会場が静まり返る
ローゼンベルク公爵は学園時代魔法の天才として知られていた人物だ
その本人がここまで断言したのである
「十七歳の時だったか父君が亡くなられ辺境伯を継ぐため彼は学園を去った」
静かに続ける
「それ以降だ……首席になったのは私だ!最後まであの男を追い越すことは出来なかった」
誰も口を開かなかった
王国最強とはただ剣が強い男ではない
誰もが認める天才だったのだ
公爵は少しだけ視線を落とす
「父からはグラニウスの父 あの帝国との戦争を終わらせた英雄 ヴァルグ・ノルディアの話を何度も聞かされた ヴァルグには手を焼かされたと……だが誰よりも信頼できる男だったと」
その言葉には先代ローゼンベルク公爵の想いが込められていた
しばらくの沈黙が落ちる
ローゼンベルク公爵はほんのわずかに口元を緩め
やがて公爵は窓の外へ目を向け静かに呟く
「ノルディアか……また共に並んでほしいものだ」
その一言の意味をこの場で理解できる者は誰一人としていなかった




