第110話 朝の鍛錬
翌朝まだ日が昇ったばかりの早朝
ノルディア邸の訓練場には
乾いた木剣の音だけが響いていた
ガンッ!!
レオンが鋭く踏み込む
だがゼムは最小限の動きで受け流した
「甘いです ぼっちゃま」
流れるようなゼムの反撃
ガンッ!!
レオンの木剣が大きく弾き飛ばされる
「うわっ!」
体勢を崩したレオンはそのまま地面へ転がった
少し離れた場所ではその姿を
エミルがその様子を見守っていた
昨日 騎士達が話していた言葉が頭をよぎる
『団長より剣技は上』
その実力を見ようと思って来たのだが
目の前で繰り広げられていたのは一方的な稽古だった
ゼムは木剣を下ろし
静かに口を開く
「ぼっちゃま 昨日よりもお強くなられております」
レオンは仰向けのまま空を見上げた
「ゼム嘘はよせ」
「本当でございます」
レオンは苦笑する
「なら俺はいつゼムから一本取れるんだ?」
ゼムは少しだけ考える素振りを見せた
「あと三十年後ほどですね」
レオンは勢いよく起き上がる
「お前生きてないだろ!!」
ゼムは首を傾げた
「左様でしょうか?」
「そこ否定しろよ」
ゼムは丁寧に一礼する
「ありがとうございます」
レオンは呆れたように笑う
「褒めてないぞ」
ゼムは何事もなかったように木剣を構え直した
「休憩はほどほどにして もう一度始めましょう」
レオンは目を丸くする
「今のが休憩かよ!?」
ゼムは真顔で頷く
「はい わたくしは十分ほど休まれました」
「嘘つけ」
レオンは苦笑しながら立ち上がる
服に付いた土を払い
木剣を握り直した
「もう一本だ!」
「かしこまりました」
二人は再び距離を取る
ガンッ!!
木剣同士が激しくぶつかる
何度打ち込んでもゼムは冷静だった
一歩先を読み
一手先を見抜く
そして トン と木剣がレオンの首元で止まる
「一本です」
「クソ!!もう一本だ!」
「かしこまりました」
また剣を交える
また負ける
それでもレオンは一度も諦めない
転んでは立ち上がり
弾かれては踏み込み
ただひたすらゼムへ挑み続ける
エミルはその姿から目を離せなかった
(昨日……皆さんは団長より剣技は上だと仰っていました)
だが今目の前にいるレオンは勝ち誇る剣士ではない
誰よりも泥だらけになり
誰よりも必死に剣を振る少年だった
その姿を見てエミルは自然と口元を緩める
(なるほど……強いから努力するのではない……努力を続けているから強いのですね)
レオンは再び木剣を構える
「もう一本だ!」
その声は朝の静かな訓練場へ
力強く響き渡った




