第109話 ルールの違い
ガンッ!!と木剣同士が激しくぶつかる
ガレスが力強く踏み込む
重い一撃をエミルは紙一重で受け流した
次の瞬間らエミルの身体が更に加速する
「っ!?」
ガレスの目が見開かれる
(身体強化……!)
教国が得意とする無属性魔法の身体強化
発動と同時にガレスは一瞬で理解した
エミルの木剣がガレスの肩へ触れる
エミルの身体がピタリと止まった
エミルは木剣を下ろし深く一礼する
「ありがとうございました」
ガレスは一瞬だけ目を丸くした
そして豪快に笑う
「ははは!これは負けてしまいましたな」
レオンもすぐに状況を察した
「そこまで!勝負あり!」
二人は木剣を納める
騎士達は首を傾げていたが団長とレオンが勝負ありと言う以上
誰も異論はなかった
休憩となり
ゼムがお茶を配っていく
「どうぞ」
「ありがとうございます」
エミルは一礼して受け取った
その時レオンが立ち上がった
「ガレス」
「はい」
「午後の討伐隊の編成を確認したい詰所へ行こう」
「承知いたしました」
レオンはゼムへ視線を向ける
「少し席を外す ゼムあとは任せた」
「かしこまりました」
レオンとガレスは討伐隊の詰所へ向かった
その姿を見送り
ゼムはエミルへ向き直る
「エミル様 ガレス殿はいかがでしたでしょうか?」
エミルは少し考え率直に答えた
「剣術はとても素晴らしいと思います ただ魔力をお持ちではないのかと思い 少し惜しいと感じました」
ゼムは静かに微笑んだ
「ちなみに王国式の戦闘では 剣が手から離れる又は戦闘不能状態で勝敗をつけます ……あと……模擬戦での魔力の使用は厳禁でございます」
エミルは少し首を傾げる
「つまり……さっきのはまだ終わって無かったのですか?」
ゼムは静かに頷く
「はいその通りでございます それとガレス殿は魔法を使えなかったのではございません 魔法を使わなかったのでございます 王国の騎士として誇りを守られただけでございます」
ゼムは御仁を直接見ることは少ない
だがエミルの顔を真っ直ぐ見たのだった
「ガレス殿は火属性の魔力持ちでございます」
その瞬間 エミルの目が大きく見開かれた
「……え?」
先程の模擬戦が脳裏に蘇る
身体強化を使った自分
それに驚きながらも対応したガレス
そしてあの重い一撃
(そういうことでしたか……ガレス殿は身体強化を使わずに戦われていたのですね)
もしあの剣に身体強化が加わっていたら
もし同じ条件で戦っていたなら
(負けていたのは……私だったかもしれません)
エミルは静かに息を吐いた
「失礼いたしました 先程の評価は訂正いたします ガレス殿は私が想像していた以上に素晴らしい剣士でした」
ゼムは小さく微笑む
「ありがとうございます 私も同じ剣士として少々ガレス殿の評価が低いように感じましたので つい口を挟んでしまいました」
エミルも優しく微笑んだ
「仲間思いなのですね」
ゼムは少し照れくさそうに目を伏せる
「長い付き合いですので」
その時だった
リックが恐る恐る手を挙げた
「エミルさん」
「何でしょうか?」
「その……どんな男性がタイプなんですか?」
エルンは思わず額へ手を当てる
「お前は本当に懲りないな」
リックは頭を掻きながら苦笑した
「ちょっと気になりまして」
エミルは少しだけ考え
静かに答えた
「そうですね……強い方でしょうか?」
その一言だけだった
だが周囲の騎士達がざわつき始める
「強い方か……」
若い騎士の一人が腕を組む
「それなら………レオン様じゃないか?」
別の騎士も頷いた
「確かにな」
「団長より剣技は上だし」
「毎朝ゼムさんや団長と鍛えてるからな」
「十五歳とは思えねぇ強さだ」
「俺達じゃ一本も取れない」
リックは拳を強く握り締めた
「よし!俺、強くなります!」
エルンは苦笑した
「その意気込みは良い……まずは訓練をサボる癖を直せ」
「うっ……」
リックは思わず言葉に詰まる
周囲の騎士達から笑いが起こった
「ははは!」
「頑張れ!」
「期待してるぞ!」
訓練場は再び笑いに包まれる
エミルも思わず口元を緩めた
だが 騎士たちが何気なく口にした一言だけは 胸の奥に静かに残っていた
『団長より剣技は上』
ガレスほどの剣士を上回る十五歳
(レオン様は……一体どれほどお強いのでしょうか)
エミルはこれから始まる日々に 小さな期待を抱いていた




