第103話 監査役の仕事
市場の視察を終えた三人は辺境伯邸へ戻っていた
執務室にはレオン クロエ エミル ゼムの4人が居た
ゼムがお茶を運んでくる
「どうぞ」
「ありがとうございます」
エミルは一礼して席へ腰を下ろした
レオンも向かいへ座る
「午前中の視察はいかがでしたか?」
「想像以上でした 解体場も倉庫も宿場町も非常によく管理されています」
「ありがとうございます」
レオンは微笑む
だがエミルは表情を引き締めた
「……ですが監査役として確認すべきものが まだございます」
「帳簿ですね」
レオンはすぐに察した
「はい」
「ボア肉事業と宿場町の収支を確認させていただきます」
「もちろんです」
レオンは迷わず頷く
「ゼム帳簿を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
ゼムは棚から数冊の帳簿を取り出し机へ並べる
ボア肉事業
宿場町収支
領地会計
どれも厚い帳簿だった
エミルは最初の一冊を開く
ページをめくる速度は速い
収支
経費
利益
取引先
必要な数字だけを正確に拾っていく
レオンは思わず苦笑した
「読むのが早いですね」
エミルは帳簿から目を離さず答える
「副団長になりますと剣を握る時間より書類へ向かう時間の方が長くなります」
帳簿のページをめくりながら続けた
「部隊運営 装備管理 予算 人員配置 報告書 毎日大量の書類を確認しておりますので自然と慣れました」
レオンは思わず笑った
「どこも同じなんですね」
「はい」
エミルも少しだけ笑みを浮かべる
「副団長とは書類仕事をする役職ではないかと思う日もございます」
「その気持ち分かります」
レオンは苦笑した
「辺境伯になってから私も剣より書類を持つ時間の方が長くなりました」
二人は思わず笑い合う
その空気も束の間
エミルは再び帳簿へ視線を戻した
修正跡
計算ミス
不自然な支出
細かな部分まで確認していく
だがページをめくる度に違和感は消えていった
数字に矛盾がない
支出も適正
記録も丁寧
誰が見ても分かるよう整理されている
「見事ですね」
思わず口から漏れた
レオンは少し照れくさそうに笑う
「ありがとうございます」
「ここまで整理された帳簿を見るのは初めてです」
エミルは静かに続ける
「監査する側として非常に確認しやすい帳簿です」
レオンはゼムを見る
「これは執事のゼムのお陰です」
ゼムは首を横に振った
「ぼっちゃま 私は整理しただけです 何を記録するか どのように管理するか 全てぼっちゃまが決められました」
レオンは苦笑する
「とは言っても 実際に整理するのはゼムです 私一人ではここまで綺麗にはできません」
ゼムは少しだけ目を伏せた
「ありがとうございます」
エミルは帳簿を閉じる
「現時点で不自然な収支は見当たりません」
「ありがとうございます」
レオンは小さく頷いた
そしてゼムへ視線を向ける
「ゼム 例の資料も頼む」
「かしこまりました」
ゼムは再び棚へ向かう
今度取り出したのは帳簿ではなかった
革紐で綴じられた分厚い資料だった
エミルは首を傾げる
「こちらは……」
レオンが答える
「魔力草事業とポーション事業の計画書です まだ事業は始まっておりませんので収支ではなく 事業計画をご確認いただこうと思いまして」
エミルは静かに頷く
「承知いたしました」
監査役としての本当の仕事はここから始まろうとしていた




