第99話 魔法の価値
倉庫を後にした二人は宿場町をゆっくり歩いていた
エミルは先程の光景を思い返していた
大量の氷で肉を保存する倉庫
そして何より驚いたのは
レオンが何の迷いもなく魔法を使っていたことだった
静かに口を開く
「レオン様」
「何でしょうか?」
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
エミルはレオンを見る
「氷魔法を倉庫の維持に使われていました」
「そうですね」
「その発想に驚きました」
レオンは少し首を傾げる
「そうですか?」
「はい」
エミルは頷いた
「教国では 魔法は人を守るための力です 回復魔法は治療 補助魔法は仲間を支えるため 生活で使うことはほとんどありません」
レオンは少し考えた後笑った
「私とは逆ですね」
「逆……ですか」
「私は魔法は便利な道具だと思っています」
エミルは目を見開く
「道具……?」
「はい 剣も 鍬も 馬車も 全部 人を助ける道具です なら魔法も同じです 人を助けられるなら戦いだけに使うのは勿体ないでしょう」
エミルは返す言葉が出なかった
教国では考えたこともない発想だった
レオンは続ける
「例えば 倉庫を冷やせば肉は長持ちします 食べ物を無駄にしなくて済みます そうすれば商人も助かります 領民も助かります 結果として領地も豊かになります
前を向いていたレオンはエミルの方に向いた
そして続けて
「それなら魔法を使わない理由がありませんよね?」
エミルは静かにレオンを見る
十五歳の少年
だが その言葉には迷いがなかった
「私には 思い付きもしませんでした」
思わず本音が漏れる
レオンは苦笑した
「育った環境でしょうね 私は辺境で育ちましたので使える物は全部使わないと生きていけませんでしたから」
その時だった
市場の方から元気な声が響く
「レオン!」
二人が振り向くと荷物を抱えたクロエが大きく手を振りながら走って来た
「やっと見つけた!」
レオンは苦笑する
「もう戻ったのか」
「さっき戻ったばっかり!」
クロエはレオンの隣に立つ
そして エミルへ視線を向けた
赤髪
蒼い瞳
整った顔立ち
何より……自分よりも遥かに大きな胸
「……」
クロエは固まった
エミルもクロエを見る
灰色の髪
可愛らしい顔立ち
そして レオンとの距離が近い少女
二人の視線が交わる
一瞬 妙な沈黙が流れた
レオンだけがその空気に気付いていない
「クロエ紹介する こちらは教国聖騎士団副団長のエミルさんだ 今日から監査役として滞在される」
クロエは慌てて笑顔を作る
「は、初めまして!僕はクロエだよ!」
エミルも一礼する
「初めましてエミルです よろしくお願いいたします」
二人は笑顔だった
だが互いの胸の内では
全く別のことを考えていた
(お…大きい……)
(この方がクロエさん……)
こうして後にレオンを巡る最大のライバルとなる二人の初めて顔を合わせだった




