第98話 氷の倉庫
「……冷たい」
倉庫から流れ出る冷気にエミルは思わず呟いた
一歩足を踏み入れると外とは別世界だった
壁際には大量の氷が積み上げられている
天井近くまで積まれた透明な氷
その間には解体されたボア肉が氷漬けされ整然と並べられていた
「これは……」
エミルは言葉を失う
教国にも保存庫は存在する
だがここまで大量の氷を使った保存方法は見たことがなかった
「驚かれましたか?」
レオンが微笑む
「正直に申し上げます かなり驚いております」
エミルは倉庫の奥を見渡した
「これほど大量の氷をどこから運んでいるのですか」
「運んではいません」
レオンは首を横に振る
「私が作っています」
「……え?」
エミルは思わずレオンを見る
「レオン様がですか?」
「はい 私は氷属性ですので毎日必要な分だけ作っています」
「毎日……」
エミルは周囲の氷を見る
この量を毎日一人で作ると言う 信じ難い話だった
「魔力量は大丈夫なのですか?」
「問題ありません 朝と夕方に補充しています まぁ日課みたいなものです」
レオンはあっさり笑いながら答える
エミルは静かに息を吐いた
(だからボア肉を大量に保存できるのですね)
塩漬けではない
干し肉でもない
新鮮な状態を保ったまま保存できる
だから品質も落ちない
「この方法もレオン様がお考えになったのですか」
「そうですね ボア肉は鮮度が落ちると価値も下がるので なら鮮度を落とさなければいいと そう考えました」
「……ですが」
エミルは氷へ視線を向ける
「普通は実行できません これほどの氷を毎日用意できる方など、そうはいませんから」
レオンは苦笑した
「確かに 私しか出来ない方法ですね」
その時 倉庫で働く男性が頭を下げた
「レオン様氷が少し減ってきました」
「分かった」
レオンは倉庫の中央へ歩く
「少し失礼します」
右手を前へかざし魔力が集まり始めた
次の瞬間 ゴゴゴゴ……と地面から巨大な氷塊が次々と生まれる
一つ
二つ
三つ
見る間に倉庫の空いた場所が氷で埋まっていく
エミルは目を見開いた
(速い……しかも無駄がありません)
氷の大きさも形も揃っている
魔力操作が極めて精密だった
作業員達は驚く様子もない
慣れた手付きで氷を所定の位置へ運び始める
「ありがとうございます!」
「助かります!」
レオンは軽く手を振る
「外は暑いから体調だけは気を付けてくれ」
「はい!」
元気な返事が返ってくる
エミルはその様子を静かに見つめていた
(魔法を……生活のために使っている)
教国では回復魔法こそ人のために使う
しかし攻撃属性の魔法は戦いで使われることがほとんどだった
氷魔法で倉庫を維持する
そんな発想は一度もしたことがない
(この方は……魔法の使い方そのものが違う)
エミルは静かにレオンの背中を見つめた
その考え方は他国で育った自分にはないものだった




