第96話 ボア肉事業
辺境伯邸を出たレオン達は宿場町を歩いていた
朝の宿場町は今日も活気に満ちている
露店を並べる商人
荷物を運ぶ運搬員
宿へ食材を届ける料理人
大勢の人々が忙しそうに働いていた
「レオン様!」
「おはようございます!」
領民達が笑顔で頭を下げる
レオンも軽く手を上げた
「おはよう 今日も頼むぞ」
「はい!」
元気な返事が返ってくる
その様子をエミルは静かに見つめていた
(領民との距離が近いですね)
辺境伯が町を歩けば 普通は緊張が走る
しかしこの町にはそれがない
敬意はある だが同時に親しみも感じられた
しばらく歩くと大きな建物が見えてくる
建物の前には馬車が何台も止まっていた
荷台には解体前のボアが積まれている
「こちらです」
レオンが足を止めた
「ボア肉事業の解体場になります」
エミルは建物を見上げた
「想像以上の規模ですね 」
「えぇ 事業を始めた頃よりかなり大きくなりました」
レオンは扉を開ける
中から威勢の良い声が響いた
「レオン様!」
「おはようございます!」
職人達が一斉に頭を下げる
レオンは笑って手を上げた
「おはよう 作業は順調か?」
「はい!」
「今日も三十頭です!」
「怪我人は出てないか?」
「ゼロだそうです!」
「それなら良かった」
職人達が嬉しそうに笑う
エミルはその光景を静かに眺めていた
(皆さん……心から慕っているようですね)
恐怖ではない それは信頼だった
レオンは職人達へ声を掛ける
「みんな 少しだけ手を止めてくれ」
職人達が作業を止める
レオンはエミルを紹介した
「今日から教国の監査役として来られた 教国の聖騎士団副団長のエミルさんだ しばらく領内を案内することになる よろしく頼む」
職人達は一斉に頭を下げた
「よろしくお願いします!」
エミルも丁寧に一礼する
「エミルです よろしくお願いいたします」
紹介を終えると、レオンは笑顔で言った
「いつも通り仕事を続けてくれ」
「はい!」
再び解体作業が始まる
エミルは場内をゆっくり歩いた
床は綺麗に掃除されている
血が流れればすぐ水で洗い流される
包丁も使用後は必ず洗浄されていた
嫌な臭いもほとんどない
「驚きました」
思わず口から漏れる
レオンが振り返った
「何がでしょうか?」
「とても清潔です 解体場とは思えません」
レオンは頷く
「食べ物を扱う場所ですから 衛生管理だけは徹底しております」
エミルは床を見る
汚れたまま放置されている場所は一つもない
職人達も自然に掃除を行っている
「誰がお考えになったのですか」
「私です」
レオンは穏やかに答えた
「信用は積み重ねるのが難しく 失うのは一瞬です、ですから最初に徹底しました」
エミルはレオンを見る
十五歳とは思えない考え方だった
(信用……その言葉をこの年齢で口にするのですか…)
だがまだエミルは判断はしない
監査は始まったばかり
見るべき場所はまだ多い
エミルは静かに心の中で頷いた
(焦る必要はありません 全てを見てから判断しましょう)




